テストプレイなんてしてないよ!



「君が噂の天赦ちゃん?キヨからよく話は聞いてるよ。」

 そう言ってにこりと微笑んだ男性に見覚えはなくて怯えた私は牛沢さんの背に思わず隠れる。自分より少し高い位置にある彼の肩越しに見ていれば困った顔の知らな人とその横で大爆笑してるキヨとガッチさん、そしてレトさんが居た。牛沢さんも多分笑っているのだろう。きゅっと握っている服が小刻みに揺れている。

「う、牛沢さん、この人誰……?」
「あー、まあそうなるよなあ。この顔で動画出てないから見た事ないよね?」

 牛沢さんの言葉に頷いて再度背中へ隠れ直す。あの男性に見覚えないが、集まっているメンバーで考えるなら、なんとなくわかる気がする。でも間違えたら失礼なので黙っておこうと思う。

「えー?やっぱりダメ?じゃあしょうがない。……天赦ちゃん、さすがにこれでわかる?」
「え?あ、」

 再度呼ばれた名前に見知らぬ彼を見れば見慣れたマスクにサングラス。ああ、どうやら私の考えはあっていたようだ。

「初めまして、フジです。いつもキヨがお世話になってます。」
「初めまして、天赦です。こちらこそいつもキヨにお世話になってます。」
「いやいや!何の話!?」
「あ、どうも!レトルトと申します!いつもキヨくんをお世話してます。」
「お、じゃあ俺も言っとくか?」
「じゃあ俺も〜!」
「やめろやめろ!収集つかねーじゃん!」

 ただの会話をここまで広げられるのも一種の才能だなあとワイワイと騒ぎ出した五人を横目に私は牛沢さんの背中から離れて一目散にひなたくんのゲージへと逃げ出す。この五人がいるのなら多分私が動画に出る必要はないだろう。今日呼ばれたのは多分フジさんにご挨拶をさせるためだろう。多分、きっと、そう。レベメンに混じるとか、そんな……。

「ひなたく〜ん!こんばんは。今日もご飯いっぱい食べた?……うんうん、今日もかわいいねぇ……。」
「ひなたは寝る時間だから、糺はこっちに来ようなあ。」
「ヒェェ……!もうちょっと!ねえ!優人さん!もうちょっとだけ!ねえ!」
「だーめ!」
「ひなたくんんんんん!」

 抵抗も虚しく牛沢さんに連れられてみんなのところへ戻り床に座ればなぜかこちらをサングラス越しにガン見してくるフジさんがいて、何か変なことでもしただろうかと自然と私の隣に座った牛沢さんを見れば首を傾げられてしまう。それを見て「困ったなあ」と牛沢さんの真似をして首を傾げれば牛沢さんは「真似すんな」と言いながら笑った。

「そこのカップル〜いちゃつくな〜!」
「れっ、レトさん!やめて!そういう事言うの!」
「あはは、天赦ちゃん顔真っ赤やね〜?大丈夫?」
「おい、フジ。こいつら無視して早く動画撮ろうぜ。」
「あれ?やっぱりそういう関係?」
「最近やっとね〜。いやあ、色々あったなあ。」
「俺ん家なんだから好きにしていいだろうがよぉ。つーか今日何すんの?言われた通り三脚とビデオは用意したけど。」
「今日は、これです!」

 じゃーん!と言う効果音と共に現れたのは見覚えのあるカードゲームーー『テストプレイなんてしてないよ』だった。いや、このゲーム五人でめちゃめちゃプレイしてなかったっけ?フジさんのチャンネルでめちゃめちゃ見たぞ?

「却下。」
「なんでうっしーが決めるの!?そこは天赦ちゃんに、」
「いや、思い出せよ。俺らがそのゲームした時、酷かっただろ。何とは言わないけど。女性に言わせる気か?」

 その何とは何だろうとは聞かなくても私には心当たりがある。多分、牛沢さんは私に気を使っているのだろう。だから私がいなければこの問題は解決する。

「あの、私、見てるので何も気にせず好きに動画撮ってください。」
「えっ、」
「えーっと、ほら……あの……その……、」
「天赦に下ネタは一切言わせねえからな。お前らで遊べ。」

 牛沢さんの言葉に全員気づいたのかなんとも言えない表情を浮かべているので前に撮ったときのことを思い返しているのだろう。YouTube見ます?すぐに出てきますけどと考えて閃いたことがある。

「あ、」
「何?」
「逆に考えればいいんですよ。使わないでどこまで面白いのか検証!」

 その言葉に「それだ!」と多くの声が上がるものの牛沢さんは不満そうにしている。聞いている分には、まあ大丈夫です。ぽろっと出ても、うん。伊達に視聴者してないよ。

「お前らそれ本当にできんの?」
「俺を見るなあ!俺だって配慮ぐらいできるわ!」
「キヨくんが一番危ないやろ。」
「なんでだよ!フジもガッチさんもいるじゃん!」
「何でもいいから天赦と撮りたいんだったらやれ。出すな。」

 そう言って牛沢さんはにこりと微笑むが背後にブリザードが吹いている幻覚は見なかったことにする。そしてこの動画、牛沢さんの圧勝で終わりお蔵入りとなったのであった。


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