コットンキャンディ



 ちゅ、と瞼に唇が降り注ぐ。やめろと小さく抵抗してもそのまま唇は下降して、鼻、頬、首筋へと移動した。その間に鼻を掠めたお酒の匂いに私は少しだけ顔を顰める。

「優人さん、酔ってます?どんだけ飲んできたんですか?……ねえ、ちょっと!牛沢さん!聞いてる!?」
「いま、動画中じゃないでしょ。」

 悪い子だねぇなんて言いながら彼は私の服を少しだけずらして肩口へやんわりと噛みついた。最近気がついたことだがどうやら彼は他人には見えづらく隠せるところが好きらしい。そんな強さじゃ跡すら残らないだろうが、触れられている箇所にじわじわと熱が集まる。

「は、なして、優人さん。」
「糺はもう少し肉つけなよ。これ完全に骨噛んだわ。固い……。」
「うるさい!酔っ払い!」

 反射的にバシりと彼を叩けば「痛てぇ!」という声を上げて私から離れたのでその隙に服を直しながらリビングへと1人で移動する。
 今日の飲み会はさぞ楽しかったのだろう。彼がここまで酔っているのは珍しかった。……というよりは、先に私が酔いつぶれることが多いので酔っ払った彼を見たことがないのが原因だと思うが、まあ、そんなことはどうでもいい。

「あ〜ざ〜な〜、待てよ〜。まさかさっきのこと怒ってるの?」
「どうせ私は抱き心地が悪い女ですよーだ!」
「俺、そこまで言ってないでしょぉ?」

 ふいっと顔を逸らせば「機嫌直してよ」と抱きしめられて、彼の言葉通りちょっとだけ機嫌が直ってしまう。そんな自分を心の中で叱咤して不機嫌なフリを続けて横を向いていれば彼がそっと私の頬に手を添える。そのまま彼は手を添えた反対側に顔を寄せ私の耳にキスを落とした。

「ひっ……!」
「あ、やっとこっち向いた。」
「そ、れは、ズルい……!」

 不覚にも優人さんの策略にハマった私は不機嫌なんて事は直ぐに忘れ去って羞恥とほんの少しの期待へと気持ちが切り替わる。

「糺は悪い子には何が必要だと思う?」
「なにも、いらない。」
「えー?そうはいかないでしょ。ねえ?」

 ねえ?じゃない、と言えたらどれほど良かっただろうか。目の前の酔っ払いの怪しい微笑みに私から言わせたいという意図がすごく伝わってきて変にドキドキしてきた。

「ほら、早く。」
「だから、なにもいらないってば!」
「んー?なあに?よく聞こえなかったなあ?」
「んぐぐ……!」

 彼が求めている言葉を言い渋る私に優人さんは「じゃあさ、」と言葉を区切った後ぐっと顔を近づけて目を細めた。急に近づいた顔に驚いて後ろへ下がろうとしてもいつの間にか頭の後ろに移動していた手と腰をがっちりとホールドした腕により失敗に終わり私は全てを悟る。これは完全に詰んだ、と。

「ゆっ、優人さ、」
「俺の事を夜遅くまで待っててくれた良い子の糺ちゃんには、何をあげたらいいと思う?」
「ヒェ……、」
「何が欲しい?……ほら、言ってみて。」
「そ、れは、」

 ――ご褒美が、
 そこまで言って、まず1回。ちうと少し乾いた感触を唇で感じ硬直。

「ふふっ、こういう時は目を瞑るのがお約束ってやつじゃないの?」
「きゅっ、急に、する、から……!」
「はい、じゃあもう1回。」
「ま、」

 待ってという言葉を唇で塞がれて、中途半端に開いた口の中に彼の舌先はいとも簡単に侵入し、奥へと引っ込んだ私の舌をあっさりと絡めとってしまった。こうなればもう私に逃げ場はない。
 じわりと溶かされる思考に大人しく目を閉じて彼の首へと腕を回した。



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