不意打ちは卑怯です



 少しだけ聞こえたガヤガヤとした声に意識が浮上する。そして、騒がしい声は聞き覚えのあるもので、どうやら部屋のドアが少しだけ開いていたのが原因らしい。
 時計を見れば深夜の2時で、自分の記憶にある時間は夜の8時。なるほど、よく寝たなと意味の無い感心をして、牛沢さんに言われていたことを思い出す。

「そうだ、TOP4実況の撮影中か。」

 休みだからと泊まりに来た私と牛沢宅での撮影日がバッティングしたと知ったのは当日で、牛沢さん本人も完全に失念していたようだった。飛び入りで一緒に実況をやるという選択肢もあったのだが四人実況が見たいという個人的欲求を優先し彼の部屋に早々に引き上げて今に至る。
 夜中なのに元気だなあと思いながらドアを閉めにベッドから降り、ついでに飲み物でも飲みに行こうかと考えてから、取りに行くには録画中の部屋に入らなければならない事に気がついた。
 四人で騒がしく録画しているところに私が行けばどんなに面白い場面でもカットせざるを得ないだろう。しかし水分を諦められるほどの潤いもなく、見てくれるかは分からないが牛沢さんに入っていいか確認の連絡だけ入れて廊下で待機することにする事にした。

「くっら……でも急に廊下の電気つけたら驚かれるよね……?」

 自分が部屋に来た時間に彼らはまだ家にはいなかったので私がいるのを知らない可能性はある。牛沢さんが軽く説明はしているような気もしなくはないが邪魔をしないために真っ暗なままスマホの明かりを頼りにリビングへと向かへば騒がしい声が近づいてきた。げらげらと大きな声で笑いながら話している内容は私がいたらしないであろう話ばかりで、そういうの本当に好きだなあと苦笑いを浮かべてしまうが楽しそうな彼らを見ているのは好きなので私も人のことが言えない気がする。
 明かりが漏れる扉にたどり着いてスマホを確認すれば既読の文字がついていて思わず笑いそうになる。録画中にメッセージを送った私も悪いのだがなんでスマホなんか見ているんだろう。頼むから真剣にゲームしてください。
 ほどなくしてガチャリと小さく音が鳴りドアが開けばペットボトルを二本持った牛沢さんが顔を出して「ごめんね」と申し訳なさそうな表情をしながら小声で呟く。気にしないで、と返答をして飲み物を受け取るために近づけばそのまま優しく抱きしめられて、軽く触れるだけのキスがふってきた。

「ばっ、」

 文句を言おうとして急いで両手で口を押える。今の一瞬じゃ影響はないだろうが心臓がいろんな意味でバクバクとなっている。その様子に牛沢さんは悪戯が成功した子供のように笑っていた。

「ちょ、うっしー!選んだの間違ってるよ!」
「それ選んだの俺じゃねーよ!」
「えー!?」

 突如飛んできたレトさんの言葉に何事もなく少しだけ大きな声で対応した牛沢さんは流石というべきだろう。未だにいろんな意味でドキドキして硬直している私の頭をポンポンと優しく撫でて「おやすみ」と囁いて彼はドアを閉め録画に戻っていった。知らない間に私の手元にはちゃんとペットボトルが握らされていて、キャパを超えた私がしばらくドア前で動けなかったのは言うまでもない。


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