ゲームに集中させてください



 牛沢さんが動画を編集している間に密かにPS4を起動させ自分のアカウントでログインしてからお目当てのゲームを起動させる。

「わあ……!実況で見てても思ってたけど、めちゃめちゃ綺麗……!」

 テレビ画面に映し出されるミッドガルの街並みは想像以上に作り込まれていて気分が高揚しコントローラーを握る手にも自然と力が籠った。リメイクをすると言ってから5年が経過してやっと発売されただけあって想像以上の出来だと彼が言っていたのも頷ける。

「初めてやるから操作方法全然わかんないけど……ストーリーなら知ってるし、なんとかなる、かな。」

 動画を撮る訳でもないし、ゆっくりのんびりやっていこう。自分でも出来そうなら自分でソフトを買って家でやればいい。そう1人で呟きながらムービを見つつ、チュートリアルを確認しながら恐る恐る進めていく。ああ、キャラのグラフィックも美しい。すごい。素敵。

「かっこいい……、これは同担拒否になるのもわかる……。」
「誰が誰の同担拒否だって?」
「リア友がクラウドの同担拒否……、えっ?」

 聞こえるはずのない低い声に驚いて横を見れば至近距離に牛沢さんが居て若干仰け反った。お仕事中では?と聞けば「休憩しにきた」と短い返事が返ってくる。よいしょという掛け声とともに牛沢さんは私が背もたれ替わりにしていたソファへ腰をかけ、足の間に私を挟んだ。

「床に座ってて痛くないの?」
「んー、昔からこのプレイスタイルだったので今更変えられないというか、落ち着かなくて……。」
「あー、まあ、わからなくはないかな。落ち着く体制ってあるよね。」
「そうなんで、あ!まって!ちょ、えっ、魔法どこ!?」
「ここ。」
「ありがとうございます!」

 操作方法が覚束無い私と何事もなく私の手元を覗き込んでボタン操作をしてくれる牛沢さんの経験値の差がハッキリと現れて若干悔しさを覚えるが、根っからのファンと今作が初めての素人を比べることがまず間違っているのだろう。覚えることがありすぎて正直しんどいが新しいゲームはやはり楽しかった。

「全然イージーじゃない……。」
「え?なに?イージーモードなの?」
「これが初めてなのになぜノーマルからやらせようとするのか……ちょっとよく分かりませんねえ……。」
「え?初めて?」
「王道RPGなんかプレイしてこなかったですもん。」

 私のゲーム歴は、FFはもちろんのこと、ドラクエもしたことはないし、テイルズシリーズもやったのは1作品だけという聞く人が聞いたら仰天されそうなラインナップが勢揃いしている。なんならゼルダの伝説すらやっていない。幼い頃からゲーム漬けではあったもののやる機会がなく、唯一やったテイルズシリーズも社会人になってからだった。

「じゃあ、何やってきたの?」
「ポケモンとモンハン。」
「RPGじゃねーし、ピンポイントかよ。」
「RPGだったらディスガイアシリーズかなあ。……ん?」
「それは右が正規ルート。てか糺はほんと日本一ソフトウェアさん好きだよな。」
「大好きです。」

 あの会社から出るゲームは普通に面白くやり込み要素も多い。そのため1作品の要素を全て回収するためにはなかなか時間がかかるので飽きることも無くずっと続けられる素晴らしいゲームが沢山あるのだ。

「ねえ、糺。もっかい言って?」
「は?」
「さっき言ったこともっかい言って。」
「RPGならディスガイアシリーズかな?」
「おしい!その次。はい。」
「次?…………、大好きです?」

 首を傾げながらそう言えば肩を掴まれた後、背後の気配がぐっと近づいて驚き震えた私に牛沢さんはくつくつと愉快そうに喉を鳴らす。そしてそのまま彼は私の髪をそっと避け耳元で甘く囁いた。

「俺も、好きだよ。」
「っ、……あ"っ!?クラウドォオ!!」

 だがしかし、悲しいかな。ドキドキしている時間などゲーム中には訪れる訳もなく死にかけていたクラウドに急いでケアルをかけた。違う意味でバクバクと心拍数をあげた心臓を落ち着かせるために深呼吸をしてコントローラーを床に置いてから牛沢さんの方へと振り返る。

「ゲーム中にやめてください!」
「えー?だってそれイージーなんでしょ?」
「牛沢さんと違って私は初心者なんですよ!?」
「じゃあ、教えてあげよっか。」

 手取り足取り、ね。そう言って不敵に微笑んだ牛沢さんが顔を近づけてくるのでサッと自分の口元を手で隠せば、まさか拒まれるとは思っていなかったのだろう。キョトンと不思議そうな表情に変わった。

「え?なに?だめ?そういう雰囲気じゃなかった?今の。」
「おっ、お仕事が先です。休憩中、でしょ?」
「へえ?じゃあ終わったらいいんだぁ?」
「操作方法を!教えてください!ゲーム性とか!ね!」

 私の言葉に彼はニヤニヤとお得意な意地の悪い笑みを浮かべて「なら頑張っちゃおうかな〜」と言って席を立つ。いい子にして待ってるんだぞ、と余計な一言を残して彼は編集部屋へと帰っていった。

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