発言注意報



「うーしざーわさーん!あーそーぼー!」
「えっ、何、急に。どうしたの?」
「あつ森配信見てたらやりたくなっちゃって。」

 そう言って生配信が終わった直後に実況部屋に顔をのぞかせた糺は黄色と茶色のコントローラーに挟まれたスイッチを持っていた。ピカブイ限定版なんですと得意げに見せられた時は俺のSwitchのダサさを笑っているのかと思ったが、まあ、それはまた別の機会に話そう。

「行くの?来るの?」
「行く!」
「はいはい。ゲート開けてあげるから1回リビング行こうな。」

 録画機器とパソコンの電源を落としてからSwitchを持って糺と一緒にリビングへと向かう。その間も糺は配信の感想を1人で話し続けていた。

「私もカブ買ったらやる気出ますかね?」
「まず日曜日の午前中に起きれないでしょ。」
「牛沢さんが起こしてくれたら起きるかも?」
「ふっ、絶対起きないから大丈夫。……はい、ゲート開けたから来ていいよ。」
「わあい!」

 それだけで嬉しそうにした糺を見て、深夜に人の島に行ってもすることないと思うけどなという言葉は自然と腹の中へと飲み込まれていく。だが結局することがないのは自分も同じため机の上にSwitchを放置して飲み物を口に含んだ瞬間、糺から思いがけない言葉でた。

「あ!ほんとにあった!すけべジャグジー!」
「げほっ!?」
「うわあ、えげつない程ピンク……すごい……。」
「んなっ、なに、けほっ、言って、」
「え?何?大丈夫?」

 噎せた俺の背を優しく撫でながら首を傾げている糺はなぜ俺がこんな状態なのかわかっていないように見える。そして配信中に何も思わずそう呼んでいた自分を少しだけ恨んだ。

「あー……、酷い目にあったわ……。」
「大丈夫ですか?」
「糺のせいで全然大丈夫じゃない。女の子があんなこと言っちゃダメでしょ?」
「え?……ああ。でもそう呼んだの牛沢さんでしょ?」
「そうだけどさあ。」

 そうじゃないんだよなとボヤいても彼女には伝わらずニコニコと画面を見て嬉しそうに笑い続けている。何がそんなに彼女の気を引いたのかは分からないが例のジャグジーを見てぽそりと糺が「確かにあれも光ってたなあ」と呟いた声が聞こえてしまった。

「あれって?」
「ラブホのお風呂ですけど。」
「ふーん?行ったことあるんだ?」
「友達と、ですよ?今流行りのラブホ女子会。めちゃめちゃ楽しかったです!」
「糺ってそういう所に行ける友達いたんだね?」
「いますけど!?」

 私をなんだと思ってるんですか、と少し怒りながらこっちを見た糺にすかさず顔を近づければ、ぎゅっと彼女は反射的に目を瞑る。そのまま少しだけその顔を眺めていれば糺は何も起こらないのが不思議に思ったのか右目だけを薄く開いた。

「何を期待したのかなあ?ねえ、教えて?」
「な、に、も!し、て、な、い、で、す!」

 俺の言葉を聞いて糺は目を見開いたあと瞬時に顔を赤く染め顔を背けゲームへと戻ってしまい少しだけ残念な気持ちになる。恥ずかしがり屋は変わらずだが俺の対応にも慣れてきたのかからかっても前よりも返答ができるようになっていた。それでもやはり彼女の反応には加虐心が疼いてしまうというもので、

「俺とも行こうよ。」
「へ?」
「ラ、ブ、ホ。」

 そう糺の耳元で囁けばビクリと大袈裟に肩が揺れて信じられないという目線を俺に向けてくる。ニコニコと返答を待っていればじわじわと首まで赤くなり声にならない声で呻き出し、終いには我慢できなくなったのか手で顔を隠してしまった。

「くっ、……ふ、」
「なっ、なん、て、こと、言うんですかあ!夜中だからって、そんな、そん、ちょっとお!」
「ははははは!本気にした?ねえ?」
「笑うなバカ!」
「んふふっ、ごめん、ごめん。」

 笑いながら謝っても説得力などないのだが面白くて仕方が無いのでしばらく笑いは収まらないだろう。けれど無理やりにでも収めなければ彼女の機嫌を損ねることも目に見えているので深呼吸を数回してなんとか会話ができる状態へもっていく。

「も、もう寝る!寝ます!島にも帰る!」
「いや、だから、ごめんってば。そこまで反応するとは思わなくてさ。」
「う、うるさいですよ!牛沢さん!」
「あれえ?俺もう実況してないんだけど?」
「んぐ……、……優人さん。」
「はい、よく出来ました。」

 会話をしながら宣言通りちゃっちゃと自分の島へと帰って行く彼女はただ単にあのジャグジーだけを見に来たようだ。そしてそのままスリープモードにしたSwitchを持って寝室へ向かおうと糺が立ち上がったのですかさず彼女の手を取って笑いかける。

「俺はいつでも行くからその気になったら言ってね?」
「ばっ、馬鹿な事言ってないで早くお風呂に入ってきてください!もう!」

 そう言って少しばかり引いていた赤みが彼女の頬に戻る様を見て、可愛いなと満足気に微笑んでしまったのは俺だけの秘密だ。

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