140SS



かわいいひと

「あの子、甘えただから大変でしょう?」
そう言ったのは糺の母で不安げな視線を寄越したので首を横に振る。
「もっと甘えて欲しんですけどいい方法ないですか。」
その言葉に「まあ」と嬉しそうに微笑んで、それならね、と言葉を続けた義母の顔は彼女にそっくりでやはり親子だな、としみじみ感じるのだ。



一日の活力

目の前に置かれたのは見覚えのある雑炊で、これはいつも彼が朝に食べているものではないだろうか。
「これなら食べられるでしょ?」
「いらない。」
「ダメ。」
朝はご飯よりも睡眠を大事にしたいのだが彼との生活ではそうもいかないようで、これは健康になりそうだなあと大人しく雑炊へ口をつけた。


もしもし、

「はい、佐々木です。」
ワントーン高い声でそう対応した糺にドキリと胸が高鳴り思わず半笑いを浮かべる。少女漫画みたいな思考が自分に合ったことに驚いた。
「(結婚したらこれが当たり前になるんだろうけど)」
これはこれでいいなと糺の小さな背に向けて呟けば彼女は電話対応を行いながら首を傾げた。


好きな時間

好きなことを好きな時に。それが彼女の活動指針で休日なんか特にそう。起こさなければ昼過ぎまで寝ていることなんかざらにあり、予定がなければそのまま時間を浪費する。それを勿体ないと言う人もいる。でも、
「俺は全然いいけどね。」
こうやって可愛い寝顔を独り占めできるならそれもそれで悪くない。


どっちもにがて

一口含んで「からい」と零せばそっと横から差し出された麦茶。それをありがたく頂戴すれば「だから言ったのに」という声が聞こえてきた。
「辛さに弱いくせにどうしてチャレンジするの?」
「……だって、」
同じもの、食べてみたいじゃん。
そう言えば「じゃあ今度は甘いものにしてあげる」と彼は笑った。


共謀罪と洒落こんで

ごめん、飲み会はいっちゃった。
そんなメッセージが糺から送られてくる。別に気にしなくてもいいのにと思いながら一つだけ期待をして返事をした。
――酔ったら迎えに行くから連絡してね。
「さて、どうなるかな。」
きっと彼女ならこの話に乗ってくれるだろう。そうほくそ笑んで開けようとしていたビールを冷蔵庫へ戻した。


副業:愚痴聞き係

バタバタと忙しない足音が「ただいま」と大きな声と共に聞こえる。糺は上着もそのままに荷物を床へほおり投げてキッチンヘ来てぎゅっと俺の背にしがみついた。多分これは仕事で嫌なことがあったんだろう。
「お仕事お疲れ様。」
ご飯食べようね、とできるだけ優しく声をかけて腰に回る腕をそっと撫でた。


お引越しはいつ?

「部屋借りる時、こだわりある?」
急に問われた言葉に首を傾げれば困ったように笑われる。ぱっと言われて思いついたら苦労しないと前置きしてから「特にありません」と言えば彼は考える素振りをした。
「こだわりがないなら俺ん家でもいいよね?」
その言葉になにが?と言えるほど私は天然ではなかった。


少しは興味を持ちなさい

糺の胸の下あたりへそっと手を伸ばせば厚手のトレーナーの上からでもゴリっとした硬い何かが感じられる。
「また痩せたんじゃない?」
「直接触らないでください。」
直接は触ってないと言えば糺は興味が無いのか寝始めた。
「肋骨が触れる体は不健康なんだぞ〜。」
本当に自分の健康に興味が無いんだから。


ギャルゲーってどう思う?

「どうって聞かれても」
何を実況しようと好きな物を好きな時にやってくれればいいと思う。そう言えば牛沢さんはちょっとだけつまらなそうな顔をした。
「だって恋愛と言ってもゲームなんだし」
そりゃ盛り上がっているのに思うことがないわけではないが口に出して制限するほど私は子供じゃないんですよ。


コラボパーカー

「こんなのずるい」
買ってしまうと呟けば隣から笑い声が聞こえた。本当は1種類につき8枚も写真を載せるはずだったと言う話を聞いて2枚に減らしてくれて良かったという気持ちともっと見たかったという気持ちが鬩ぎ合う。
「何色買うの?」
「えっとね」
少し迷ったあと緑と答えれば彼の目元が和らいだ。


得意不得意

目回ったと言った牛沢さんが見ているのはノーツ。
「俺やっぱリズムゲー苦手だわ。よくできるな。」
「慣れかな……やる?」
「俺は見る専で!」
この時牛沢さんからリズムゲーのどこが好きかと聞かれ、カチカチとテンポよく鳴るボタンの音が好きだと言えばよく分からない顔をされたのはまた別の話である。


福音を君と

キラリと画面に映った指輪に心臓が高鳴る。自分と揃いのそれはついこの間、彼に貰ったものだった。動画内で時折指輪を弄っている彼を見て笑いながら自分も時々確認するように触っているため人のことは言えないなあ、なんて。
「夢みたい。」
これからも隣に貴方がいる幸せが続きますように。


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