2人の秘密



 あの作戦会議が行われた夜から少し日にちが開いた頃。キヨは糺を誘い居酒屋へとやってきた。どうにかして五人実況への道を切り開けないかと懲りずに酒の力を借りようとしているのだが、いつもよりもハイペースで酒を飲んでいた糺はキヨの意図せぬ時間に酔い潰れそうになっている。

「キヨはさぁ、誰かを好きになった事はある?」
「……やっぱお前、珍しく酔ってるな?」
「んー?こんなお酒で酔う人いるのかなぁ?」

 目の前にいるんだけど。その言葉をキヨは飲み込んでもう何杯目かわからないお酒をあおっている糺を見る。赤い頬と眠そうな目。しゃべり方は割とはっきりしていても伸びきった語尾に正気は見られない。

「おーい、糺さん?大丈夫?」
「大丈夫じゃなーい!大丈夫じゃないよ、こえ。」
「(ダメだなこりゃ。)」

 糺の回らない呂律に思わずキヨは苦笑いを浮かべる。この状態では一人で帰るのは無理だろうし、実況の話なんて出来っこないだろう。今日は引き上げるかとキヨが会計のために腰を浮かせた時、糺の口から思いがけない言葉が転げ落ちる。

「キヨはぁ、かっこいいから、なあ。」
「え?なになに?急にどうした?」
「……リアルで、好きになるって、しんどいかも。」
「え?糺、俺の事好きなの?」
「キヨはお兄ちゃんだも〜ん。」

 支離滅裂すぎて会話になってはいないが糺が珍しく恋バナをしたいということだけは伝わってきた。いつも糺が避ける話題を出すということは、

「お前にもついに春が来たのかぁ。」
「まだ冬だし〜!」
「そうじゃねぇよ。馬鹿。」

 きっと糺はこの会話を覚えていることはないだろう。酒をある程度飲んだあとの会話を普段からあまり覚えていないのだから、今日くらい酔いが回っていれば確実にないと予想はついた。ならば魔が差すのは当然である。

「糺は誰が好きなの?俺の知ってる人?」
「んー?んー、……そう、だね。」
「え!?まじんこ!?誰!?」
「ぜったい、ないしょにしてね!」
 
 うしざわさんがすきなの。

 その言葉にキヨは目を瞬く。聞き間違いだったのだろうか。あんなに頑なに会わないと言っている人物のひとりだぞ。有り得るかそんなこと。そう考えてキヨはスマホのムービーを起動し糺に声をかける。きっとチャンスは今しかない。

「おーい、天赦。今度レトさんとガッチさんとうっしーと俺の動画に来いよ。絶対だからな?」
「んえー?なんでえ?」
「なんでも。いいよな?そんでその後俺と実況撮ろうね。」
「ん、いいよお。ふふふ、」

 言質は貰ったぜ、とキヨは心の中で呟いて録画を停止する。とりあえずこの酔っ払った妹分を家まで送り届け、その後このムービーをグループLINEに流す事から始めよう。まあ、でも。

「うっしーにはぜってーこの話は言わねぇ。」

 これから面白くなりそうだなと考えてキヨはこれからの算段を立てるのだった。

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