人の気なんて露知らず



 ドキドキと怒りとそれから色々。そんな自分でも心の整理がつかない状態での録画はいつも以上に神経をすり減らした。何か余計なことを考えたであろうキヨのせいでなぜか私の隣に牛沢さんが座っている。いや、ほんとまって。なんの拷問を私は受けているんだ?
ぐるぐる回る思考とは別に慣れ親しんだゲームに体と口は自然と動きなんとか録画を終了することができ、ほっと息をつく。

「天赦さん、大丈夫?」
「ひぇっ、」
「え?」

 しまった、と思った時にはもう遅い。耳元で聞こえた低音ボイスに変な声を漏らしてしまいカッと頬が赤くなるのがわかった。

「す、すみません……!大丈夫です!」
「えっ?ほんとに大丈夫?俺なんかした?」
「ち、ちがいます!なんでもないです!」

 サッと耳にかけていた髪を下ろし耳を隠しながらそっと上から押さえる。ぞわりと背筋に走った感覚を忘れられそうになくて、いつまでたっても顔は赤いまま。その様子にキヨはニヤニヤと嫌な顔をして全てを理解さているような様に腹が立つ。あとで覚えてろよ。

「それより、お腹すきません?もう十八時過ぎてますけど。」
「あー、そうだなあ……、どうせ今日みんな泊まってくでしょ?ガッチさん以外。」
「まって?そこは牛沢さんも抜かそう?」
「なんで俺も!?」
「え?だって、」

 結婚していますよねと口を開きかけたが「うっしーは大丈夫だよ」というキヨの言葉に許可があるのなら大丈夫かと思い口を閉じる。既婚者を許可なく宿泊させるのは如何なものか。ましてや私という女がいる環境にそれはダメだろう。何事も起こす気は一ミリもないけどなんて事を考えながら使い終わったゲーム機をせっせと片付ける。

「なあ、天赦さん、俺に厳しくね……?気のせい?」
「まあ、色々あるんだよ。色々。」
「なにそれ。キヨは知ってんの?」
「もちろん!面白くてしかたねーわ。」
「なになに?すごく気になるんだけど。」
「キヨくんホンマに天赦さんと仲ええね。」

 全部聞こえているんですけどぉ!と今すぐ大声で叫びたいのをぐっと我慢してコートとバッグを手に取って立ち上がれば男四人は仲良く首を傾げた。

「どうせキヨの冷蔵庫になにもないんでしょ?それに泊まるならお酒とおつまみ買ってこないとね。」

 だから買い物行かないと。そう言えば最初にキヨが立ち上がり自分の部屋へと財布と上着を取りに走る。その様子に残された三人もゆっくりと上着を着込むがその手に財布は見当たらない。

「天赦さんも財布置いていきなよ。」
「そんなことしたらキヨに怒られますよ?」
「大丈夫だって!さっきの出来事忘れてないでしょ?」

 そう言ってにこりと笑うガッチさんを私は当分忘れないだろう。さすが最年長とだけ言っておく。そんなやり取りをしていればキヨが戻ってきてガッチさんがさっきと似たような事を本人に言えば、さすがのキヨも先程の件はやばいと思ったのか素直に頷いていた。

「そういえばさっきの続きだけど、俺、今日は帰らないって言ってあるから大丈夫だよ。」
「ガッチさんよりも天赦さんの方が心配やわ。この状況に女の子一人は大丈夫なん?」
「お仕事は明日お休みですし、お家帰っても一人だし。それにキヨの家には何回か泊まっているから大丈夫ですよ。」
「…………二人は付き合ってないんだよな?」

 牛沢さんの確認に「有り得ない」と声が被る。そのままキヨは私の頭をポンポンと叩いて「妹にしか見えん」と言うものだから頬が緩むが、キヨのその後の発言で全てをぶち壊される。

「それにこいつ、好きな奴いるしな。」
「お、おま……!ふざけんな!」
「いっって!ちょ、ちょっ、ガチじゃん!?……逃げろ!」
「待てこの野郎!今日という今日は許さん!」

 好きな人も何も目の前にいるのにふざけんなよまじで。
 そう口に出せるはずもなく玄関へと逃げたキヨを追って自分も部屋を出る。本当は口が悪いのだがそれを隠す余裕もない私は、残されたガッチさんとレトさんが牛沢さんの肩を優しく叩いていたことを知ることはなかった。

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