智慧と???



これは夢だ。
懐かしい―――との思い出。

「俺さ、潜在的な適合率はどちらかといえば低い方なんだよ。」

崩れ寂れた街だったところ。
それを眺めながら彼はそう言うのだ。

「最初のうちは苦労したんだぜ、こいつが全然言うこと聞いてくれなくてよ。」

苦笑いを浮かべながら見慣れたソレをガシャと鳴らす。
私とおそろいの赤と銀の剣と盾。
私との違いは銃が付いているか否かだけ。

「『こんなセンスの無い奴は初めてだ』って当時の教練担当に言われたっけ。まあそれでも、どうにかこうにか任務に支障がないレベルまで漕ぎ着けたんだよなあ…。」

昔を思い出しているのか彼の顔はいつもより大人びて見えた。
才能ある後輩が羨ましいという割には表情に嫉妬はなく、すっきりと吹っ切れたような顔をしていたのをよく覚えている。

「人間配られたカードで勝負するしかないって言うだろ?結局そのカードで何がしたいかだと思うんだよな。」

そう言って彼は屈託なく笑うのだ。
太陽のように眩しく春のように暖かい。
そんな彼を私は――――。





ピピピという機械音でパチリと目が覚めた。今日も懐かしい夢を見た気がするが毎度のごとく頭がズキズキと痛くて思い出せそうにない。ため息をつき、髪を掻きあげようとした時に目元が濡れていることに気がついた。…また、私は泣いていたのね。自分のことながらよくわからない。私は泣きながら寝ていることが多いのだ。起きた時に漠然とした懐かしさと、寂しさを感じているのはそのせいなのか。何を見て泣いているのだろう。両親の事なのか、育ての親なのか、それとも、

「たいちょ〜!ご飯だよ〜!!」

「え、」

1階から叫ばれる声にドキリとした。李奈の方が早起きということは天気は雨だろうかなんて考えてしまうのは失礼だろうか。

「部屋にバスルームが無いのが悔やまれるわね…。」

着替えて一階に行くのは構わない。しかし李奈が言っていたように朝食の時間ということは支部のバスルームには誰かいるかもしれないし、なにより廊下で出くわしたっておかしくない。この顔を見られたことがないから行きたくないのではない。見られすぎて、心配をかけているから極力見せたくないのだ。慣れてきたメンバーは極力気にしないように装ってくれる。心の内は知らないけれど。

「智慧?起きてる?」

コンコンと控えめにノックをされる。この声は悠一か。起きてる、と返事をすれば濡れタオル持ってきたよとドア越しに聞こえた。………どうしよう、バレてる。仕方なしにドアを開ければ、またそんな恰好で寝て…と呆れられた。昨日のパジャマ代わりは大きめなロンT1枚だけだ。日本ではどうもこのスタイルは受け付けないらしい。祖国では男性なんか裸で寝てる人だっているのに。ちょっとムカついたので乱暴にタオルを手から奪う。

「…ありがとう。」

「どういたしまして。」

「……もしかして昨日の時点で見えてたの?」

「…お前が泣いてる気がしただけだよ。」

「…そういう事にしといてあげるわ。」

「ははは…。そういえば今日大学は?」

「2限からよ。…もう一回寝てもいい?」

私の言葉に苦笑いした悠一はちゃんとアラームかけろよ、と言い残して1階へ降りていった。きっと私が二度寝することを伝えに行ったのだろう。二度寝する気はないが、この沈んだ気持ちと顔でみんなのところへ行く気も出なかった。
ドアを閉めベットに飛び込む。仰向けに寝っ転がり持ってきてもらったタオルを目に当てる。…冷たい。

「…あなた、いったいだれなのよ。」

昔から私の中に住み着いてる誰か。
忘れてはいけないはずの誰か。
私の―――。

「あなたは、だれ。あなたは、わたしの、なに?」

思い出そうとすれば頭が痛む。けれどその痛みに負けないくらい懐かしく泣きたくなる。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい!!!!!

「なまえも、かおも、しらないくせに…っ!」

その人の事なんか何も覚えていないのに、どうしてそんなことを思うのか。なにも知らない。わからない。けれど、彼は私の大切なものだったのには間違いない。なのに、どうして忘れているの。どうしてあなたは私の中に居座るの。どうして、私は、生きているの。

「ああ…!ああ…っ!!どうして!……どうして!!」








あのまま殺してくれればよかったのに
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