ソフィアの入隊話

長旅お疲れ様でしたと言う言葉と共にヘリのドアが開いた。バサバサとヘリの風圧で遊ぶ髪を抑え建物を見る。今日からここが私の住処になるかもしれない所。アラガミに対抗する手段を手に入れることが出来る、そう思うとまだ何もついていない右手が重くなった気がした。

「ソフィア・シックザールさんですね?」

「ええ。」

「支部長にあなたの案内を頼まれた者です。支部長の元へご案内いたします。」

いつまで経っても動かない私に痺れを切らしたのか案内役の人は素っ気なく事務的に声をかけ勝手に行ってしまった。はぐれたら迷子になってしまうため急いで後を追いかける。極東支部の支部長は私の伯父だ。私はアラガミによって壊されてしまった父さんの傍には居たくなかった。だから私は極東の伯父を頼って逃げてきたといっても過言ではないと思っている。伯父に極東へ行きたいと言えば条件つきでOKをもらえた。その条件はゴッドイーターになること。普通なら躊躇うであろう条件を私は喜んで受け入れた。元々私はゴッドイーターになりたかったのだ。つまり極東に来るという事は、父さんの元から離れられてゴッドイーターにもなれる、一石二鳥だったわけだ。

「ここからはお一人でお願いいたします。それでは失礼します。」

「ありがとうございました。」

案内された所は古びた鉄製のドアの前だった。足を進めればドアは自動で開き明かりが一斉に灯った。いきなりの明かりに眩む。少し経つとなれたのか視界が元に戻った。足を踏み入れた部屋は古びて所どこが傷だらけの壁に囲まれ真ん中にポツリと神機が置いてある部屋だった。部屋の真ん中の上部にはモニタールームが設置してある。そこに伯父はいた。


「ようこそ、人類最後の砦『フェンリル』へ。長旅ご苦労だったな、ソフィア。」

「お久しぶりですね、ヨハン伯父様。お元気そうでなによりです。そして、このたびはこの様な機会をいただきありがとうございます。」

機械越しではあるが久しぶりに伯父様の声を聞いた。極東に移動することはメールでやり取りしていたため声を聞くのは何年ぶりだろか。こちらから話しかけたものの聞こえているのか不安だったがどうやら聞こえているらしい。私の言葉にかすかに口元が緩んだ。

「それでは今から対アラガミ討伐部隊ゴッドイーター適合試験を始める。」

ヨハン伯父様の言葉に体が固まる。いざ適合試験を目の前にすると心の準備をしていたとしても緊張してしまうのはしかたないと思う。ゴクリと唾を飲み込み神機を睨む。これを手にしてしまえば普通の生活にはもう戻れない。普通の生活よりも常に死と隣り合わせの、血なまぐさい生活の始まりだ。意を決し神機を掴む。すると上からガシャンと大きな音を立て腕輪の上部が降ってきた。

「あ゛っ!?あ゛あ゛あ゛…っ!!!!」

なんとも言えぬ気持ち悪さと激痛が体を犯す。脳をぐちゃぐちゃとかき回されている気分だ。これは、失敗したら喰われる理由が分かった。細胞と言えど流石はアラガミ。気を抜いたら内側から食い破られそうだ。

「今君の体にはアラガミと同じ細胞が埋め込まれた。その腕輪は肉体と融合し生涯外すことは出来ない。…君の覚悟を聞きたい。」

伯父様の言葉を聞きつつ、脳裏に映るのはあの残酷な光景。血にまみれた真っ赤な部屋。散乱した机や椅子。沢山の子供だったモノ。今でも手に残る生暖かい温度。その事件の後から人が変わったように狂った父。思い出したくもない悍ましく酷い記憶。ガクガクと足が震え冷汗が頬を伝う。弱った私に偏食因子は容赦なく浸食を進める。痛い、辛い、苦しい。でも、これを乗り越えられなきゃアラガミとは戦えない。あの時は私が無力だったから、全部壊れた。でも、これからは、違う…!

「私が、ゴッドイーターになりたいのは、もう、大切なものを失わないためよ…!!…だから、大人しく、私に、従いなさい!!」

残った力を振り絞り左手で思いっきり機械を叩く。ジーンと痺れに近い痛みが襲う。しかし、偏食因子による気持ち悪さも痛みもなくなっていた。緊張が解けその場にへたり込む。拘束がなくなった右手がダラリと情けなく床に手をついた。そこで見えたのは赤をベースに黒い一本の線が入った重々しい腕輪だった。





私がゴットイーターになった日




「あの後、榊博士、っと、今は榊支部長だったわね。支部長に聞かされたのだけれど後にも先にもあの機器を叩いたのは私だけらしいわ。」

「そりゃそうだろ…。実際、俺はなんで隊長が叩いたのか話を聞いたうえでよくわかんないし。」

「だって向こうにも私を喰い殺そうとする意思があったから、負けるわけにもいかないでしょう?それに何がなんでも従わせようと思って実力行使に出ただけなのだけれど…。」

「あ、うん。それでこそ隊長だと思う。(さらっと恐ろしい事言うなぁ…。)」

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