キク

おにーさんとの素敵なお茶会を終えまた街を歩く。潮の香りと熱気を乗せた風が全身を撫でるように吹いた。うんうん、この感じもホウエンならではよね〜!地図もなしにルンルンと上機嫌に道を歩いていれば見知った、けれども見慣れない可憐なフロスティブルーが現れた。

「ホ ウ カ ちゃん!」

「きゃっ!?」

「ホウカちゃん、久しぶりね〜!元気にしてたかしら?」

「き、キクさんでしたか…!びっくりさせないでください……もう……。」

後ろから急に声をかけられて驚いたのか心臓あたりを抑えるホウカちゃんが可愛くて思わず笑えば笑わないでくださいと彼女は眉を釣り上げた。あらあら、せっかくの可愛い顔が台無しよ?

「ほらほら〜笑って!女の子は笑顔が一番素敵よ〜!はいピース!」

「あ、ちょっと!キクさん!!勝手に撮らないで!」

「自然体で可愛いわよ?ハイネちゃん経由でダイゴさんにも送ろうかしら〜?」

「絶対やめてください。」

「ま、真顔になるほどいやなの……?」

「嫌です。話題に出すのも極力やめてください。」

怒った顔はどこへやら。途端に表情を失くし声を低くしたホウカちゃんは怖かった。これ以上地雷を踏み抜くわけにも行かないので話題を考える。うーん、どうしようかしら。

「あの、キクさん。」

「なあに?」

「……気を悪くしないで欲しいのですが、その、あなたは誰にでもそんな態度なんですか…?」

おずおずとそう切り出したホウカちゃんは私を通して誰を見ているのか。私との話題に出せる人物であまり良くない表情からして、きっと彼女だろうと美しい黒髪を思い出す。

「カレンがどうかした?」

「っ!?」

「ふふっ、ホウカちゃんは正直者ね。顔に全部書いてあるわよぉ!それで?カレンがどうしたの?」

「…その…、彼女の言動が…あまり、好ましくなくて…。」

けれども、彼女はああいう方だと理解はしているつもりです、と浮かない顔でホウカちゃんは言う。理解はしていても好きにはなれない。うんうん、わかるわかる。理解しても受け入れられるかは別だものね。それにカレンからしてみれば、伝わらない――伝える気がない、ともいえるかも――お節介でもあるだろう。

「ホウカちゃんは、どうしたい?」

「どう、って?」

「カレンを好きになりたいのか、それとも嫌いになりたいのか。仲良くなりたいのか、離れたいのか。どうなりたいかをもっと明確にしないと、ずっと今のままよ?」

カレンがホウカちゃんを可愛がるのはきっとやめないだろう。彼女は嫌がるとわかっていてやっていると思うから。

「あーあ!なんだかカレンに会いたくなっちゃった!次の行き先はヤマブキに予定変更ね〜!チケット取り直さなきゃ!」

「え、ちょ、ちょっと!キクさん!」

「これはあなたの問題だからどうしようもないわ、ごめんなさいね。でもカレンはいい人よ。私、とーっても大好きなの!」

とびっきりの笑顔で言えばホウカちゃんは目を丸くした。ふふっ、そんな顔も可愛いから羨ましいな。
ボールからピジョットを出して背中に飛び乗る。またね!と唖然としたホウカちゃんをそのままに私は空へ飛び立った。
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