リブレ

飛行機から降りればホウエンとはまた違った街並みが俺を出迎えた。何度来てもオシャレな街並みが多い地方だと思う。
仕事に行った父さんを見送って俺も自分の用事を済ませるために歩き出す。父さんの仕事についてやってきたここ――カロス地方に例の想い人はいる。出来上がったプレゼントをいつも以上に気にかけて歩く。人にぶつからないように気をつけているわりに早く歩こうとする頭に思わず苦笑いがおこる。どんだけ会いたいんだよ。どうやら思っている以上に自分は彼女に入れ込んでいるらしい。これではホウカさんを馬鹿にできないな。むしろ同意してしまうかも、なんて。そんな浮かれたことを考えていればギターの音が聞こえた。この曲、アイツが好きな曲だ。その事に気が付き思わず足を止めてしまった。音が聞こえる方に向かえばギターを掻き鳴らしながら歌う女の子がいた。ストリートミュージシャンというやつだろう。猫耳のようにまとめられた髪にちぐはぐな靴下をはいた妙な出で立ちで十分目立つだろうが、力強い歌声が存在感を倍にしていた。それにしても楽しそうに歌っているなあ…。

「ありがとうございました〜!また明日もここに居るのでよかったら明日も来てくださいね!」

どうやらさっきの曲で最後だったらしい。お金を回収しギターや譜面を片付ける少女。あ、そうだ。

「すみません。」

「はーい!なんでしょ?」

「見物料、払ってないと思って。」

はい、と持っていた硬貨と試作品のアクセサリーを渡す。本当はアイツに渡そうと思ったのだが、硬貨だけではあの歌に対する料金が足りないと思ったのだ。キョトンとした顔で俺を見上げる彼女に、試作品で悪いけど、と付け足せばもらっていいの?と首をかしげられた。

「歌、うまいんだな。かっこよかった。」

「えへへ!ありがとう!そう言ってもらえて嬉しいよ!」

「俺、リブレって言うんだ。よかったら名前教えて欲しい。」

「私はミネット!ミネット・マロンよ!ぜひ宣伝よろしくね!」

「ああ。…毎日ここで歌ってるのか?」

「んー?日によって違うよ?でもここにはよく来るよ!」

ここは迷わず来れるから!と笑う彼女は方向音痴かなにかなのだろうか。迷わずこれるからってことは、他に行く時は迷子にでもなっているのだろうか。なぜか急に心配になった。

「じゃあ、私帰るから!リブレくん、ありがとう!また機会があったら聞きに来てね!」

「ああ、友達にも、彼女にも宣伝しとくよ。頑張れ。」

元気の塊みたいなミネットはブンブンと手がちぎれそうな程手を振って人混みに紛れて行った。…さて、俺も行こうかな。遅い!って怒られたらミネットの事を話そう。今度一緒に見に行こう、ってな。
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