カガチ

旧友を探し遥々カロス地方に行ってみたものの手がかり一つ得られずシンオウの我が家に帰宅した。ただいま、と声をかけてもシンと静まり返っている我が家は一年経ってもなれないもので、寂しさだけが募る。……ああ、今日の仕事はやめよう。もともと営業日が決まっている訳では無いし、大丈夫だろう。それに今日は特別なお客さんが来る予定もない。そうと決まれば私が向かうのは1箇所だけ、異文化の建物だ。何の為に建てられたのか分からない建物ではあるがわたくしにとっては人との触れ合いができるお気に入りの場所である。荷物を玄関においたまま家に鍵をかけ建物を目指す。今日は誰がいるだろうかと考えていれば建物の入口に誰かが佇んでいた。見たことのない深紅の髪に紫紺の瞳が印象的な美丈夫だ。あまりに美しい顔立ちに、ほうっとため息が漏れた。冷たい美貌、といえば良いのだろうか。他を寄せ付けぬ強さが彼にはあった。

「おい。」

「は、はい!」

「お前がカガチという女か?」

「わたくしをご存知なのですか?」

「チッ、はずれか…。」

急に話しかけられたのも束の間名前を聞かれたかと思えばあからさまに顔をしかめられる。美しい花には刺があるとはよく言うものだ。この男はまさにそれではないか。第一印象で抱いた好感度は急降下。さすがのわたくしでも許せません!

「随分と不躾な方ですね。名乗りもせず人に聞くだけ聞いて舌打ちですか?大層なご身分ですこと。」

「フン。お前も見た目によらず随分と攻撃的だな?」

「あなたの態度が悪いからです!なんですか、あの態度は!わたくしは確かにカガチですが、見知らぬ男に舌打ちをされる覚えはありません!」

こんな大声を出すなんていつぶりだろうか。公衆の面前で大声を出すなんてはしたないと頭のどこかで思うがそれよりもこの男への怒りが勝ってしまっていた。

「なら名乗ればいいのか?俺はテンゲ セキサン。トーホク地方の四天王だ。」

「テンゲさんですね。わかりました。しかしなぜトーホクの方がわざわざここに?わたくしを探しにいらしたのですか?」

「自意識過剰もほどほどにしろ真っ白女。俺はお前に似た罪人を探しに来たんだ。」

こ、この男…!いちいち癪に障る物言いをして…!!思わず口元が引きつってしまった。それにしても、罪人?なんの話…いや、まてよ。そういえばトーホク地方で起こった一大事件があったはず。

「わたくしに似た、というのはどういうことですか?」

「……お前みたいに頭から足まで全部が白いんだよ、そいつは。ただな、お前と違って深い深い濃紺の目をしている。」

だからお前じゃない、と言ったテンゲさんが泣きそうだと思ったのはなぜだろうか。全然変わらない涼しい表情の中で密かに揺れる瞳は捕まえる意思はなく、どちらかといえば――、

「邪魔して悪かったな。もうここに用はない。帰らせてもらう。」

「え、ちょっと、…テンゲさん!」

話は終わってないと叫んでも彼は聞く耳を持たず颯爽と建物を後にした。謝罪くらいしてくださーい!!
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