セキサン

乱暴に控え室のドアを開け、勢いよくソファーに座る。行儀が悪いとすれ違いざまにアルラが怒っていたが知るものか。俺はあのシンオウの1件から虫の居所が悪いのだ。

「あらあら〜、顔が怖いわヨ?」

「うるせえ。」

「もう…、意中の人じゃなかったのがそんなに残念だったの?」

馬鹿馬鹿しい事を言うシスイをギロリと睨みつければ、コワ〜イ!とわざとらしく震え上がった。なにが意中の人だ。なにが。ふざけるな。

「セキサンさん、ちょっといいですか?」

「ミコト〜!お客さんがいる時に来るなんて珍しいわね?」

ノックもなし控え室に入ってきたのは着飾ったチャンピオン姿のミコトだ。黒いドレスに身を包んだミコトはこの時だけ髪をあげる。だからこの時にしかミコトの瞳を見ることは許されない。隠す理由として、ミコトの瞳は俺ら一般人とはかけ離れていることが見てわかる。それに、幽霊が見えるとか死を予言できるとか馬鹿らしい噂もある曰く付き。流石はトーホク地方伝説の末裔とでも言うべきか。

「セキサンさん?話聞いてます?」

「1ミリも聞いてない。」

「もう…、ちゃんと聞いてください。時間ないんですから…。」

「挑戦者が来てるのにここに来るお前もどうかと思うけどな。まあ、いい。なんだ。」

「シンオウはどうでしたか、と聞いてるんです。結局見つからなかったのはその態度で分かりますけどちゃんと報告してください。」

「チッ、分かってるんだったら別にしなくてもいいだろ。」

アイツはいなかった。それだけだ。そう、それだけで終わりのはずなんだ。なのに、なんでこんなにイラつかなきゃならないんだ。

「ダメです。詳しく教えてください。あの目撃情報の結果は酷似した方だったんですか?」

「――ああ、わかった、わかった!!言えばいいんだろ!?カガチとかいう真っ白いやつだったよ!頭の先からつま先までまるでアイツみたいに白かった!だが姿は似ていようが中身はアイツのように静かに野心を燃やすようなタイプじゃなく感情に素直で攻撃的だったけどな!」

半ば吐き捨てるように言えばシスイが目を落としそうなくらい驚いていた。それに対しミコトは何かを言いたそうにただただ静かに俺を見つめている。

「せ、セキサンが怒鳴るところ、初めて見たわ…。」

「…怒鳴ってなんかない。」

「いや、あれはもう怒鳴ってるのと一緒…あ、セキサン、急いだ方がいいわヨ。アルラちゃん突破されそう。」

「早く言え!!」

それじゃあ私も戻ります、と席を立つミコトをよそに俺は急ぎ足で控え室をあとにする。部屋への移動の間も暗い青が脳裏にチラついて離れない。……ああ、くそ!ミコトがアイツのことを聞いてきたせいだ!今に覚えてろ!!このイライラを何処にぶつけるか、向かう先はただ一つであった。
prev top next
ALICE+