ブラック許すまじ




※モブ審神者視点※


 青いマントと白い軍服を着込んだ女性の登場にザワザワと賑わっていた演練場が一瞬にして静まり返る。
 顔面偏差値の高すぎる刀剣男士に混じっているにも関わらず華やかさとは別に目を引くしっかりとした凛々しい顔立ちだが、遠くから見てもわかるほど刺々しいとも取れる雰囲気を醸し出していた。
 引き連れている刀剣男士は、数珠丸、膝丸、巴形、日本号、長曽根、三日月という難民を煽るスタイルだった。そしてよくよく見れば、主、主、と彼女にちょっかいをかけている三日月は女体亜種のようで余計に注目を集めていた。しかもなんか隣には刀を二本ぶら下げた見たことのない白髪のおねーさんがいる。……んんん?刀剣女子?コスプレ?……みっちゃんを中心に伊達組がザワついているのだけは確かだ。白狼ってなんだろう。伊達組連れてくればよかったなぁ……。
 そんな見た目も、引き連れている刀剣男士も(言い方は悪いかもしれないけど)異様な彼女に別の意味で演練場がざわつかない理由がなかった。あの人は誰だとか、○○欲しいとか、見せびらかせてんじゃないとか、人それぞれの感想があふれかえっていた。…私?あの中だったら膝丸さんが欲しいなぁ…。
 渦中の彼女達はざわつく中を物ともせず優雅に歩く。堂々とした姿が人を寄せつけぬオーラを更に加速させていた。それに亜種月以外の刀剣たちと戯れる様子もない……というか、あれは亜種月が一方的に構っているように見える。それをなぜか"はくちゃん"(とどこかのみっちゃんが言っていた)が宥めている。その様子を見る限りブラック本丸ではない、と思うんだけど……?

「そこの貴女!お待ちなさい!」

 多くが静観を決め込んでいたなか、いかにも気が強そうな少女が一行の目の前に躍り出た。あの、明らかに未成年なんですけどそれは……。未成年審神者って原則できないんじゃ…?なぜ声をかけたのか気になる前にそちらが気になってしまった。そして進路をふさがれたことで初めて女性の顔が歪む。その顔にはありありと邪魔だと書いてあった。不機嫌な女性を背に庇う様にはくちゃんが間に割って入った。

「なにか御用かな?お嬢さん。」

「用があるのは貴女ではありません。どいてくださるかしら?」

「それはできない相談だ。すまないね。」

 話は終わりだと言わんばかりに切り上げようとするはくちゃんに向こうのみっちゃんが待ってくれと声をあげた。なんだなんだ。これから一体何が起こるんだ。修羅場の気配を察知、と思わず言えば江雪にため息をつかれてしまった。解せぬ。しかし見てる限り穏やかではないのは明らかだったし、キッと睨みつける少女を宥めようと必死なみっちゃんだけがなんだか可哀想だった。うーん、なんで怒ってるんだろう…。私にはとんと見当がつかなかった。一触即発な雰囲気の中女性はため息をついてマントを外そうとした。それに気が付いた膝丸が外すのを手伝ってそのまま外したマントを持ち巴形と何処かに行ってしまった。何してるのか気になる前にあらわになった女性の左腕に仰天した。腕が、ない……。怒りをあらわにしていた少女もまさかの事態に絶句していた。

「あなたが何を勘違いしているかは分かりかねますが、それは勘違いだと断言しましょう。気になるのであればあなたの担当に"蓮見の浄化屋"と聞いてごらんなさい。それと、未成年が審神者になることが原則禁止されていることはご存知かしら?」

「えっ?」

「あなた、見たところ15,6だと思うけれど自分の意思で審神者になったのかしら?保護者の了承は得てる?それと勉学はどうしているの?」

 見下ろされながら怒涛の質問を浴びせられている少女はみっちゃんと一緒に目を白黒させている。あれ?なんだこの人、めっちゃいい人なんじゃないか?眉間に皺を寄せたのは邪魔だからじゃなくて、あの子が未成年だからだったんじゃね?

「ブラック本丸というものが摘発され始めた頃に審神者適正の基準も上がったし、適正年齢も定められたのよ。その前までは基準があれば誰でもなれるようなザル状態だったからあなたみたいな未成年でも審神者になれたのよ。……まさか、その頃から審神者をしていたの?」

「う、ぇ…?」

「あ、主が審神者になったのはつい3か月くらい前だよ。でも、そんな規定があったなんて……。」

「担当は何も言ってない、という事でいいかしら?……両親の了承と自分の意思はあるの?学校にはちゃんと通っているの?」

「…ぁ…っ、」

「……いいわ、もう、何も言わないで。わかったわ。」

 泣き出しそうな顔をした少女に事情を察したのか首を横に振った女性。あれだけ騒がしかった演練場はお通夜のように静かになっていた。端末を弄っている人をちらほら見かけるからさにちゃんで実況してたり、政府に通報していたりするのだろうか。女性も亜種月に何かを話したあと端末で誰かに電話をかけはじめた。亜種月が少女と同じ目線で何かを話しかけ頭を撫でているという事はあの女性はフォローを亜種月に丸投げしたようだった。我に返った少女の刀剣男士たちは困惑しながらも少女を一生懸命慰めようとしている。あの子の本丸はこれからどうなるのだろうか。

「あなた、名前は?」

「石持、です。担当は、木五倍子という男性です。でも、木五倍子さんが、……そんな…、」

「……蓮見?聞こえていて?対象名はイシモチ。その担当はキブシだそうよ。……ええ、そういう事でよろしく。」

「あの、お姉さん。私たち、どうなるんですか…?違反、なんですか?」

「違反していたのはどちらかというと政府よ。それに加担したキブシという担当も、ね。……今日はもう本丸にお帰りなさいな。後日連絡があるはずよ。それまでに審神者を続けるかどうか、あなたの刀剣男士と良く話し合うように。……寂しかったわね。よく、頑張ったわ。大変だったでしょう?」

 女性はそう言って顔を紙のように真っ白にさせて震える少女を片腕で抱きしめる。偉い、偉いと優しく褒められた少女は声をあげて泣き始めた。話を聞いていた限りでは3か月とはいえ厳しい環境にいたせいか知らぬうちに精神的にやられていたのだろう。政府ギルティ……担当も許すまじ……!ブラック本丸摘発が増えてきたおかげで政府の膿もだんだんなくなっているという噂はあるものの、やはり綺麗さっぱり排除するのが難しいというのは今回の事ではっきりした。未成年には未成年の事情があると思い極力声をかけないようにしていたが今回の件で声は積極的にかけていくべきなのではないかとちょっと思ったり。
 いつの間にか戻ってきていた膝丸が女性にマントを装着させていた。その傍には政府の人物であろうスーツに身を包んだ男女を引き連れた巴形が佇んでいた。巴形と膝丸が連れてきた人たちに石持ちゃんを預け、女性は刀剣を引き連れて颯爽と立ち去った。結局彼女が何者なのかわからなかったし、引き連れていた刀剣女子がなんなのかすらわからなかったが政府の黒さを垣間見た演練だったなぁ。

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