雪が庭を白く覆い尽くす。昨日まで桜を咲かせていたはずだが、どうやら今日の相棒の気分は冬らしい。逆月が寒いと言ってコタツを出していたり、白狼が火鉢を出してくれたりと本丸は急な冬支度に追われていた。そんな中相棒は短刀に混じって雪遊びに励んでいる。……風邪ひいてもしらないわよ?
「よっ!俺みたいなのが突然現れて驚いたか?」
「……また、きたの?」
「おいおい、つれないなぁ……。そこは驚いた!と言ってくれないか?」
「いつもの登場の仕方と代わり映えしないのにどう驚けと言うのです?……まあ、その開け方で襖を壊さないのには驚いていますけれど。」
スッパーン!といい音を立てて執務室の障子が開け放たれる。そしてこの訪れ方をするのは決まって鶴丸国永だけなのだから音に驚きはするが本人には一切驚かなくなってしまった。
ここに入るにはそこを開けるしかないだろ?と愚痴を零しながら開けた障子を閉めずに隣に座る鶴丸国永。毎度この刀は何がしたいのかがわからない。
「なあ、何をしようとしていたんだ?」
「仕事ですよ。あなたの所の審神者だってしているでしょう?」
「うーん……、葛はどうだろうなぁ?俺はあの子の刀じゃないから出陣も内番もしていないしな。」
そう、これだ。自分の主を名で呼んで、主従を否定する。なら、あなたは誰の刀剣男士なのだろうか。もちろん、わたくしのではない。ならばきっと相棒の鶴丸国永なのだろうが、あいにく彼が鍛刀できた報告はあがっていない。患者でもないのだから、本当にわからない。
「それにしてもこの本丸はいつ来ても景色が違って飽きないな!」
「景観は馬鈴薯の好きにさせてますので彼の気分次第でいつでも変わりますから、くっしゅん…!」
ぶるりと寒さで体が震える。開けっ放しの障子から冷たい外気が入ってくるからだろう。暖かかった部屋が冷えきっていた。震えたわたくしを見て、鶴丸国永は悪い悪いと口だけで反省し障子を閉めに行った。そして自身が着ていた羽織をわたくしにかける。その際に仄かに香った紫煙の香りと温もりに少しドキリとした。
「気遣いは嬉しいけれどこれではあなたが寒いのではなくて?」
「俺はこうやって暖を取るから気にしないでくれ。」
よっという掛け声と共に畳から体が浮き、そのまま鶴丸国永の胡座の上に横向きに乗せられる。……って、ちょっと!?
「あ、あなた何して、」
「あー、いいねぇ。人というのはやっぱり温いなぁ!……キミに離れられると寒いんだ。このままでいいだろう?」
「い、いいわけ、」
「あー、寒いなあ!寒すぎるぞ、この部屋は!暖を取らないと折れそうだ!」
寒さで折れるわけないのに、この神様は何を言っているんだろうか。態とらしい態度にため息を我慢出来なかったが抱きしめる力を強めたという事は離す気は一切無いと見た。気が済むまでこのままだろう。どうだ、驚いたか?と子供のように目をキラキラさせて嬉しそうにしている彼に怒鳴れるほど短気であれば、彼はわたくしを離してくれたのだろうか。もしもの話をしたところでどうしいうもないが彼のせいで片付かない仕事に頭を悩ませるのが自分だと思うと……ねえ……?
「ああ、――。俺の――。俺だけの――。もうどこにも行ってくれるな。」
「…?」
「俺はキミさえ――なら、それでいいんだ。今度こそ――……!」
「何を、言っているの……?」
彼が話し始める前に羽織のフードを被せられたせいですべて聞き取ることが出来なかった。ブツブツと小声で話しかけていたのはわかるため、もう一度と聞き直してもなんでもないとはぐらかされる。
眉を下げた不格好な笑い方。置いていかれてどうしたらいいかわからないと言われている気分だった。どうしてそんな顔をするのか聞く前に、今の姿はまるで白無垢のようだなあ、と話を振られ牽制される。そのまま俺に嫁がないか?なんてさっきの顔が嘘のように上機嫌に笑っていたけれど、冗談……よね……?