幸葉の始まり




 "俺"を取り返すことが出来れば認めてやろう、と言ったのは一体誰だったのだろうか。


 由緒正しい真田の血をひいた娘、それが私――真田幸葉である。武芸の達人である父と茶華道の師範である母の間に生まれた一人娘。毎日槍の修行に明け暮れ、時々花を生けたり茶をたてたりする、そんな毎日を過ごしていた至って平凡な女だ。

 そんなある日、真田家の家宝のひとつが忽然と消えた。それは幸村様が扱っていたという"朱羅"という二槍の1本であった。その日は総出で家の隅から隅、果てには池の中まで探したが見つからず途方に暮れた。家に居たもの全員に話を聞いても誰も持ち出していないという。怪しい人影も見ていないとも。
責任を感じ腹を捌くのではないかと思うくらいに父は自分を責めていたし、母は今すぐ天に旅立ってしまいそうなほど意気消沈していた。そんな両親とは裏腹に私は漠然と無くなったことに納得していた。

 元々"朱羅"は私を好いてはいなかった。男に振るわれていたからなのか、はたまた幸村様に似て女性が苦手だったのかは定かでないが、私に振るわれることを少なからず嫌がっていた。
 槍の稽古を始めた頃はそれが顕著で、触れた手は何かによって弾かれるし、無理やり振るおうとすれば手が焼け爛れた。普通はそこで諦めるのだろうが、負けず嫌いな私は認めてやるのだと息巻いた。そうして槍の稽古にのめり込めばその現象は一定の確率でしか起きなくなった。そして最近は起こることが少なくなったのだ。認めてくれていると、少なからず思った。このままいけば完全に認めてくれるだろうと慢心した。それがいけなかったのだと思う。私に呆れてしまったから、朱羅は本体ごと居なくなったのだろう。

 悲しみで静まり返った我が家に吉報をもたらしたのは時の政府で、朱羅らしき槍を持った遡行軍が居たという情報だった。珍しい槍を持った遡行軍がいた、という審神者掲示板での書き込みにより発見されたのだとか。場所は戦国、三方ヶ原。掲示板にあげられていた写真を見せてもらえば、確かに形状は朱羅そのものだった。間違いない。アレは確かに私が振るいたかった槍だ。
 審神者に見つけ次第返却するようにと御触れを出す、という話で纏まりそうだったが、それではいけないような気がした。

「私が、見つける。」

 気がついた時にはそう言っていた。だって、朱羅が私を試しているとしか思えなかった。本気で歴史を修正したいのならば徳川側が2本とも持っていき、存在をなかった事にするだろう。なのに1本だけ持ち出して戦場で使うなんて、なんて中途半端な事をしているのだろうか。
 朱羅なのか歴史修正主義者なのか。意図も真相も知ったことではないがこれは私の問題だとしか思えない。だから審神者になって私が探すと意見を譲らない私に両親は渋々折れるしかなかった。

 こうして始まった審神者人生に、いつか夢で見た緋色が笑った気がした。
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