葛の始まり




 その男は目眩を感じるほど美しかった。白い色彩の中で弧を描く金の双眸。幼馴染に笑いかける彼は、今まで見た何よりも美しいと思った。
  欲しい。彼が欲しい。幼馴染を愛しい目で見つめる彼が欲しかった。神が人を愛する姿が好きだった。
 幼馴染は私に甘い。強請れば自分の大切な物だろうが関係なしにくれるのだ。それは彼が好ましいと感じた人に向ける彼なりの愛だと知っていた。だからきっと白い神様が欲しいと言えば譲ってくれる。その確信が私にはあった。
 案の定、彼が欲しいと言えば一週間も経たないうちに手筈が整った。明音ちゃんは私に何もかもを譲ったあと、審神者をやめ、提督になるらしい。それでいいのかと問えば気にするなといつもの笑顔で返された。
 後に知ったことだが明音ちゃんは私が審神者適性試験に落ちていたことを知っていたらしい。しかも能力ではなく性格の方で落ちたのを知っていて譲ったそうだ。黒葛はすぐに壊すから、と予備をくれるような男が知らないわけがないかとも思ったが絶対に言ってやる気はない。
 明音ちゃんは白い神様――鶴丸国永だけを私に残し、他の刀剣男士も、元あった本丸も、刀装も、全てを解体していた。鶴丸にそれでよかったのか聞けば、キミは中古品を好まないお姫様だと主が言っていた、と真面目に返されてしまった。さすが、明音ちゃん。よく分かってる。
 譲り受けた鶴丸は明音ちゃんを主と定めたまま私の本丸にいるらしい。出会い頭にその説明をされた。ただし、審神者をやめた明音ちゃんから霊力が供給されるわけもなく、それでは鶴丸も顕現できなくなってしまう。それを防ぐために仮契約だけはしてくれるようだった。主に会えないのは辛いと憂いを浮かべる彼はより一層麗しかった。その顔、とっても素敵。ずっと眺めていられそう。ああ、なんて私は幸せなのだろうか。鶴丸国永という神を教えてくれた明音ちゃんに感謝しなければ。
 こうして私と鶴丸の奇妙な本丸生活が始まったのだった。
 ……こんのすけ?ごめんなさい。そんな式神、知らないわ。

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