人生2回目!

「じゃあまあ、暇な時に連絡してね」
「ええ、アンタも体には気を付けて。たまにお兄ちゃんの近況報告もくれたら嬉しいわ」
「会えばね……父さんにもよろしく!」

余計な肉が一切ついてない綺麗な後ろ姿に手を振る。本当に自分の母親なんだろうか、と思うほど美魔女な母は、一度振り返り右手をひらひらと振って空港のゲートへと歩いていく。まあなんとキャリーケースが似合うこと。すれ違いざまにあらゆる人が母の方へと振り返ってる。だよねぇ、なんて自慢げに心の中で呟いて、俺も空港をあとにした。


***


先週から突然始まったひとり暮らし。スポーツドクターである父親が、有名な野球選手にスカウティングされてニューヨークへと旅立った。いわゆる単身赴任なんだけど規模がでかすぎて、父から報告されたときはだいぶ他人事だった。俺のコメント、「へぇ……ええ!?」だったし。んでもって父が大好きな母はその流れで私も行くのと言い出した。ねぇ、俺来週から高校生なんだけど!?なんて言ったらひとり暮らしでいいでしょなんて返された。おいおい、俺が人生二度目じゃなかったら、高校生にして突然のひとり暮らしとかグレるぞ!?ってな感じで、まあ二度目の生なので広い心で受け止めてあげましょう、と引っ越しの準備をしていた。
そう、俺は今、転生というものを経験している。

「久しぶりに仙台周りふらついてこ〜っと」
前世で転生ものめっちゃ流行ってたよな〜。スライムになったり令嬢になったり。そんな中、俺は見事5歳児に転生した。幼馴染と遊んでる途中、アスレチックから落っこちて頭を打った拍子に走馬灯がバーッと駆け巡り、前世の記憶二十年分を取り戻したわけだ。物凄い膨大な量の情報を処理しきれなくて、そこから一週間は寝込んだ。その様を間近で見ていた幼馴染はものすごい心配症になり、俺が東京からここ仙台に引っ越してきた今でも連絡を取り合っている。俺、小学校までは東京にいたんだよね。そーんで、俺は思い出したわけです。自分が前世で、アイドルなるものをしていたことを。

転生する前の俺は、14歳の時に原宿でスカウトされて地下アイドルを始めた。事務所に集められた同年代の男の子4人で組まれたユニット、Rubyは歌唱力で売り出されたものの、4人それぞれがキャラ立ちするまではなかなかファンを獲得できなくて苦労した。最年少の俺は毎日が楽しくて仕方なかったけど、最年長のリーダーは18歳で、大学進学後は辞めることも常々考えてたし。初めてのライブは前売りの段階で自分たち名義の売上は4枚、当日券も2枚で合同でやったどのグループよりもファンが少なかった。ライブ後の特典会とか、ひとりひとりとめっちゃ話し込んだもんね。
そこから、自分たちの方向性とかもう一度考え直して、とにかくファンを大事にしよう。運営方法にも出来る限り口出ししていこうって決めて、いつの間にか200人キャパのライブハウスもチケットが完売するようになってた。あー、懐かしい。俺は最年少で元々が能天気な奴だったから、とりあえず笑っとけ!ってプロデューサーに言われて元気キャラで売ってた。チェキ会とかも恋人っぽいポーズ指定よりも、友だちとツーショット撮る感覚でギャグだったり笑い合ってる系のものが多くて。そのせいで転生したいまでも、向かい合ってお礼言うときとか無意識に手を握っちゃったりするんだよね……約6年間に染みついたものはそうそう抜けないみたいだ。

「っと、ここで京治くんから電話だ。……もしもーし」
『もしもし』
「どしたの京治くん。もしかして今日からひとり暮らしの俺のために電話してくれたの?」
『おばさんから、寂しそうにしてたから今日は電話でお願いって来たから。もう行ったの?』
「おー。俺は只今仙台駅を散策中。ねぇ晩飯なにがいいと思う?」
『筍の炊き込みご飯』
「俺今日からひとり暮らしつってるじゃん!!」
『葵ならそれくらい余裕かと。まあ思ったより元気そうだね』
「別にひとりが怖いとかそんな歳でも無いしなー。入学式もあるし」
『それどころじゃないって感じだよね。高校も料理部?』
「そのつもり。あんのか知らんけど」
『料理部なら、今年も夏休みはこっち来れるよね。待ってる』
「来る前提じゃん。まあ行くけどさ」

ばいばーいと言い切って赤いボタンを押す。幼馴染こと京治くんとは毎日何かしらやり取りをしてるんで、終わりがアッサリしてても問題ない。てか筍か〜旬だもんなあ〜いやまだ?早い?でももう舌が炊き込みご飯を求めて仕方ないから、お惣菜売り場があるであろう駅前のショッピングモールへと歩き出した。

二度目の人生、結構楽しんでます。


2020/04/05