花籠の恋煩い

 めっきり冷え込む朝がここ数日続いている。朝日が昇る前の清廉な空気を肺いっぱいに吸い込んでから審神者の一日は始まる。縁側に置きっぱなしの草履をつっかけ、竹籠を手にして、朝露に濡れた庭を散策する。
「主、おはよう」
「おはよう石切丸。今日も良い天気になりそうね」
 朝の早い石切丸に出くわし、一言二言交わして、審神者は庭の奥へと進む。日が昇る前の外気は身体の熱を奪っていく。流石に寝起きのまま、寝巻で庭を歩くには限界だろうか。両手を擦り合わせながら、ほうと手に息を吹きかけた。もうすぐ、真っ白な吐息が出てもおかしくなさそうだ。
 ぱちん、ぱちん。小気味良い音を鳴らしながら、竹籠へ花を入れる。この時期は寒椿が綺麗に咲き誇り、本丸の中に置いてもよく映えて良かった。
 審神者を始めた頃の季節まであと少し。自慢の花々が咲き誇る庭もあと少しだけの見ごろだろう。雪の降り積もる季節には当たり前なのか、この季節感のない庭でも花は咲かないのだった。
 おおよそ竹籠にいっぱいになると今度は混む前の洗面台へ急ぐ。うかうかしていると刀剣達でごった返しになるのだ。
 洗面台に置いておいた花瓶には昨日の花が残っている。それを手早くごみ袋に入れ、花瓶の水を入れ替える。そうして、花瓶の大きさ、形、色に合わせて手頃な花を挿す。毎日している習慣は呼吸をするのと同じで、苦にならない。これをしないと締まりがないとさえ、審神者は感じている。
「これは、広間でいい?」
「あ、小夜ありがとう。ここ、使うわよね。もう少し待ってもらってもいいかしら」
「うん。手伝うよ。……主は歌仙にはまだ会ってないの?」
「ええ。いつもこの時間はあまり会わないわね」
「そう」
 本丸の中でも比較的朝の早い小夜に出くわす。小夜が隣で花を挿すのを手伝ってくれたおかげで、審神者の予定よりも随分早く終わった。小夜が広間へ行くのを見届けてから、審神者は花瓶をそれぞれ所定の位置へと設置した。
 審神者がこの作業を終える頃には、厨房から良い匂いが漂ってくる。いつも、つられるように足を延ばしてしまう。
「おはよう」
「主、おはよう」
「よく眠れたかい?」
 暖簾をくぐった審神者の声に燭台切、歌仙がそれぞれ呼応する。奥からひょっこりと顔をのぞかせて審神者を見るのは、堀川と加州と大和守だ。彼らとも挨拶を交わす。
良い匂いの発信源は鍋からだった。この本丸では味噌汁が人気のせいか、献立の中によく盛り込まれている。鍋をかきまぜている燭台切の横にいくと、見えた中身からなめこの味噌汁だと確認することができた。
「私も手伝うわ。……あとはよそうだけよね」
「うん。お椀はそこで、お茶碗はまだ食器棚だから気をつけて出してね」
 手前の作業台の上に用意されたお椀を手にし、鍋の近くへと寄せた。燭台切はまだ作るものがあるらしく、すぐにその場を離れてしまった。
 お玉で一杯分を掬い、お椀へ流しこむ。ぶわりと湧く湯気と一緒に味噌の良い香りがして、とたんにお腹が減ってくる。最初の頃に比べて刀剣達の数は増え、用意する食事の量は鰻登りだ。
 食事をする大広間でそれぞれが好きなように美味しいと食べる食事の風景が審神者は一番好きな光景だった。
 用意したお椀の半分程度入れたところで、粟田口の短刀がそろって厨房へやってくる。それに続いて他の短刀もやってきて、審神者のよそったお椀や加州が作った玉子焼き等、あっという間に彼らによって運ばれていく。
「主、収穫完了致しました」
「朝からお疲れ様」
「いえ、これくらい何度でも」
 規則正しく言うのはへし切り長谷部だ。内番として畑当番をお願いしていた。朝採れたての野菜は今日のお昼には出てくるだろう。大きくなった大根や白菜の入ったざるを受け取る。すると、横から伸びた手が視界に入った。
「こんなにたくさんは持てないだろうに。長谷部に任せればいいものの……全く君って人は」
「そんな柔じゃないもの。歌仙こそ、その煮っ転がしはいいの?」
「あれは出来上がったからいいんだよ。ほら、それ貸してご覧」
 先程、長谷部から受け取ったばかりのざるが歌仙の手に渡る。
 彼が心配するほど大したことではないのだが、多少は重かったので素直に歌仙へ手渡す。ずっしりと重みのある大根は夕餉あたりに煮物として出てきそうだ。
手持ち無沙汰になった審神者は、調理台に散らかったものを片づけたり、水道に置きっぱなしの調理器具を洗う。寒い朝の食器洗いは突き刺すように冷たい水道水が手に堪える。仕方なしにお湯の出る蛇口をひねる。しばらく流すと温かいお湯が出始め、洗い物を再開した。
忙しなく過ぎる朝食の準備を終え、審神者が厨房を出ようとした時、歌仙に肩をとんとんと突かれる。
「どうしたの」
「さっきの御褒美だよ」
 歌仙に手の平を差し出すよう言われ、審神者は素直に片手を出した。ぽんと渡されたのは小さな懐紙に包まれた何かだった。
「開けてもいい?」
「もちろんだよ」
 懐紙を広げると、ころころと小さな形が複数姿を現す。淡い桃色をしたそれは桜の形をしていた。
「かわいい……」
 しかし、審神者にはこれが何かよく分からなかった。和菓子に馴染みが薄かったせいか、団子やおはぎくらいなら食べていたし分かるものの、目の前に姿を現したものが理解できなかった。
「これは和三盆というんだよ」
「じゃあ、お砂糖なのね」
「そうだよ。君がたまに飲んでいる珈琲や飲み物に入れたり、そのまま口にしても、好きに食べていいんだ。この間、見つけてこっそり取っておいたのさ」
 にっこりと言う歌仙は満足げで、審神者は可愛らしい形をしたそれに惚れ惚れした。世の中にはまだ、知らない物が多く存在している。あとで早速珈琲でも入れようかと思案していると、加州が待ちくたびれたように審神者と歌仙を呼びに来た。
「ちょっと、みんな待ってるよ……って、主どうしたの?」
「なんでもないわ。みんな揃っているなら早く行かないとね」
 加州、歌仙と揃っていくと、他の刀剣達がずらりと並んで待っていた。朝は決まって全員揃って食事を始める。初期刀である歌仙からの提案で始まったものだったが、今では習慣化していた。
 審神者の号令の元、大広間に響く、いただきますの声は、朗らかな本丸の一日の始まりだ。誰もが楽しそうに食事をとり、誰かは今日の出陣について意気込み、他の誰かは非番らしく何をしようかと思案していた。
 上座で審神者が眺める風景は、温かでほっとできる風景で、それは確かに審神者自身が築いてきたものだ。両隣にいる歌仙と加州は周りの刀剣の様子を見ながら、食事を取っている。
「主、ご飯が進んでないけど大丈夫?」
「大丈夫よ。なんか、この風景見てたらちょっと前のことが懐かしくなったわ」
「ちょっと前っていつのこと?」
「そうね。歌仙と加州と前田と愛染と鯰尾しかいなかった最初の頃よ。ほら、あの時はもう少し小さい机をみんなで囲んでいたじゃない? 少し懐かしくなったわ」
 審神者が朗らかに言うと、加州はあの頃かと思いだす。寒い日々に炬燵で暖をとり、全員で食事を作り、資材は少ないものの日課をこなした。それほど前のことではないのに、加州はどこか遠く昔のようだと感じた。それは審神者も同じで、だからこそ先程のような言葉が出たのだ。
「主、早くしないと出陣部隊が準備を始めてしまうよ」
「歌仙は相変わらず厳しい」
「加州、主の悪癖は知っているだろう? ほら、主も笑ってないでその残っている玉子焼きを食べてしまうんだよ」
「言われなくても分かってるわよ」
 止まった手に気がついた歌仙がここぞとばかりに小言を並べる。今日は歌仙が一日近侍の日だ。審神者がゆっくりしていると、あっという間に日が暮れてしまう事を知っている歌仙は何かと急かす。
 審神者は小皿に取り分けられた最後の玉子焼きを口に放り込む。もぐもぐと咀嚼をしていると、主、と呼ばれた。
 声の主は今日の出陣の部隊長を任せている蛍丸だ。審神者は何とか素早く玉子焼きを呑みこむ。多少のつっかえが気持ち悪かったが仕方ない。蛍丸の声に反応をした。
「みんな揃ったの?」
「準備万端。行ってくるよ」
 蛍丸がくるりと向きを変えたところで審神者も慌てて立ち上がる。玄関まで着いていき、部隊全員が揃っていることを自身の目で確認をした。
「今日もいってらっしゃい。全員で帰ってきてね」
 最初の頃から変わらない言葉を告げる。出陣を指示するのは審神者だが、審神者は戦場に赴くことはできない。だからこそ、誰よりも全員がまたこの場に戻ってくることを第一に話す。
「あるじさまはしんぱいしょうですね」
「私はそれが務めだし、それしかできないのよ」
 不服そうに頬を膨らます今剣の頭を撫でる。それから、部隊全員に向かって手を振り出陣へと送りだした。
「やっと行ったね」
「あら歌仙、厨房はもういいの?」
「ああ。堀川と加州がやってくれてるよ」
 腰に手を当てて、送り出すのも一苦労というように歌仙は苦笑した。審神者は歌仙の姿を見て、珈琲を入れようとしていたことを思い出す。忘れないうちに、と考えるとまた厨房へと戻ろうと向きを変えた。
「主、仕事はどうするつもりだい」
「飲み物用意してからでもいいじゃない。歌仙のせっかち」
 歌仙は執務室とは反対方向へと歩き出した審神者を引き留める。彼はどうにかこうにか審神者を仕事に出したかったようだが、すでに歩き始めたところでは無意味だった。
 日が昇り始めたとはいえ、雨戸をあけたばかりの本丸の廊下は薄日が差し込むだけで、まだ暖かくなるのには時間がかかりそうだ。冷たい床板を進み、賑やかな声がする厨房に審神者は入っていく。
 厨房の端にある棚へ真っ直ぐ向かい、審神者と時々薬研が使用している珈琲メーカーを戸棚から取り出した。調味料の入っている戸棚から、定期的に取り寄せている珈琲の粉を入れ、審神者は手際よく準備していく。
「本当ならサイフォンが欲しいところね。今度見てみようかしら」
「さいふぉん?」
「珈琲を入れる機械なんだけれど、今使っているものよりも美味しくいれられるのよ」
「へえ、何でも美味しい淹れ方ってのはあるもんだね」
 審神者はあとで薬研にも相談しようと言って、珈琲が落とし終わるのを待つ間に珈琲用に使用している口の広いコップを用意する。
作業台には先程歌仙が渡した和三盆が広げられていた。
 見た目だけでも十分惹きつけられるものだったのか、食器洗いが完了した堀川と加州が審神者の近くへやってきて大層賑やかになる。
「主さんこれどうしたんですか」
「歌仙がさっきくれたのよ。可愛いよね」
「歌仙もそういう贈り物とかできたんだ」
「加州は僕に喧嘩でも売っているのかい」
「あー絶対に喧嘩とか売りたくない。女の人に贈り物とかしそうでしない感じだったから結構意外ってことだったけど。……ま、ああいうことならしょうがないよね」
 ふふん、と笑う加州の姿に審神者は首を傾げる。この間から刀剣達の言動で分からないことが多すぎる。歌仙はどこ吹く風、というように気にしてない様子で、戯れの会話で取り越し苦労なのではと審神者の方が心配するほどだ。堀川が、和三盆をどうするのか聞いてきたので、審神者が答えるとちょうど珈琲がこぽこぽと全て落ちたのを知らせた。
「歌仙は飲む?」
「僕は遠慮しておくよ」
 審神者はできたての珈琲をコップに注ぎ、そこへ和三盆を放り込んだ。それからスプーンでかき混ぜて、一口含むとほう、と一息吐いた。ほんのりと甘い和三盆がとけて、珈琲独特の苦味を和らげて口当たりの良い味だ。
 普段、審神者は珈琲を無糖で飲むことが多い。甘いのが苦手なわけではなく、徹夜で書類仕事をする時があり、そういったことで飲む機会が多いのだ。
「堀川、加州、お昼の準備になったら呼んでもらえるかしら」
「いいよ。今日は少ないんでしたっけ?」
「そうなの。遠征も長時間のものをお願いしてるし、出陣もしているのよ。なるべく早めにいくようにするけど」
 審神者の言葉に堀川は任せてよと笑う。加州も待っているよと言ったところで審神者の横にいた歌仙が不思議そうな顔をしていた。審神者は、しまったという様子で、口元に手を当てると、歌仙の顔に青筋が浮かびそうになっている。こめかみに手をあて、呆れた声が続いた。
「君って人は……。そういう大事なことは前もって」
「燭台切には言ったんだけど、あの時歌仙いなかったのね」
「それで言ったつもりだったと。仕方ない、今日はさっさと進めないとだよ」
「わかってるわよ」
 この本丸ではすでに恒例となっている光景に堀川と加州は顔を見合わせ、肩を竦めた。相変わらず小言を並べている歌仙とそれに応戦している審神者は同じ歩調で厨房を出ていく。いつの間にか綺麗に洗われた珈琲メーカーは食器置きに置かれていた。
 審神者と歌仙は互いに言いたいことを言って補っている。審神者が他の刀剣達と深く関わり過ぎない分、初期刀である歌仙との距離は周りに比べて距離が近い。遠慮のない物言いはその表れだ。
 審神者達の出て行った厨房で堀川と加州は何とも言えない表情だった。言いたいけれど、言えない。今はその時期ではない。二振りは理解していた。酸っぱい顔をした二振りのところに和泉守が来たが、彼もまた奇妙な顔をしたのであった。

 審神者が執務室に入ると真っ先に行ったのは部屋の換気だった。開けられる障子、扉の全てを開け放ち、部屋をぐるりと見渡して頷いた。
「主、これはいくらなんでも風邪をひいてしまうよ」
「だって、空気が籠ってるから一度換気したかったのよ」
 歌仙は眉間に皺を寄せて、嘆かわしいといった表情で審神者に小言を続ける。審神者はそれを気にした素振りも見せず、いつも通り業務の準備を始めた。淡々と準備をしている審神者の様子に諦めた歌仙は、押し入れにしまいこんでいた膝かけを取り出す。刀剣が風邪をひいても、手入れ部屋に行けば全回復するが、審神者はそうもいかない。それに、主を欠いては何もできないので、何はともあれ風邪をひかれるのは困るのだ。
 歌仙が膝かけを手渡すと、審神者は簡単には受け取らなかった。
「身体は大事にすべきだ」
「これくらいじゃ風邪なんてひかないし、歌仙は案外心配しすぎるところがあるわ」
 いらないと、審神者は歌仙に膝かけを押し返す。手の中に戻ってきてしまった膝かけは歌仙にとっても必要なものではなかった為、結局押し入れに戻すこととなった。
 審神者が無言で機械へ文字を打ち込む間、歌仙は渡された紙切れを読んでいた。紙切れには審神者が編成をした部隊が記載されている。それは明日の編成部隊で、審神者に確認してほしいと言われたものだった。
 明日の出陣は――正確には今日の夜更けだが、場所は京都・三条大橋だった。編成は短刀、脇差、打刀の三種を合計して六振り。夜戦で有利な刀剣だ。打刀には歌仙の名も記載されていた。部隊長には前田藤四郎の名前があり、以下、短刀は薬研藤四郎、厚藤四郎、愛染国俊。脇差は鯰尾藤四郎。この本丸では比較的練度の高い刀剣での編成となっていた。
「主、少しいいかな」
「はい」
「三条大橋へ出陣する編成は、本当にこれでいいのかい」
「そのつもりで歌仙に渡したわ。変更する必要があればいつも通り言ってくれれば考えるけど……」
 怪訝そうな顔した審神者の言葉尻は萎んでいくように消えた。そもそも、歌仙が編成に関して口出しをするのは久方ぶりのことだ。それも、歌仙自身が編成に加わっていて異を唱えるのは珍しい。日々、出陣する地域は異なる。刀剣の練度や政府からの要請、歴史修正主義者の動向等、さまざまな状況に合わせ、審神者は編成を行っていた。
 審神者がこの本丸に着任した頃に比べれば、編成について口煩く言わなくとも、要点を押さえた部隊にしている。それは歌仙もよく理解していたのだ。
 それでも、言わなければいけなかった。
「この編成、打刀は加州でもいいんじゃないか」
「駄目よ」
 ぴしゃりと言い放った審神者の迫力に歌仙は気圧された。これまでも、刀剣に縁のある地域への出陣を行っている。それは審神者がこの本丸に来てから、一貫して決めている事項があったからだ。
 縁のある場所へも必ず向き合い、己の心とも向き合うこと。
 それは審神者が決めたことだった。それを捻じ曲げるのが審神者自身ではあってはならないはずだ。
 審神者はしばらく逡巡してから言葉を続けた。いつもよりもゆっくり、はっきりと浸透するように発する。
「この先、いずれは池田屋にも向かうことになるわ。それに、加州だけでなく他にも幕末に活躍した刀剣はいる。今後、それら全ての刀剣を編成に組み込むつもりよ。
もちろん各刀剣の練度やバランスは考えてのつもりでいるけれど、今じゃなくてもいいわ。
 加州はうちにいる幕末に縁のある刀剣の中でも練度が高いし、元々、一度で駆け抜けることは難しい可能性もあるから、いずれは三条大橋の編成にもいれるつもりよ。それは本当なの。
 でも、明日の三条大橋への出陣は初めてだし、ここは初期刀である歌仙がいてくれたら心強いと思っただけ。それでもいけないかしら」
 引き締まった表情で話していた審神者の顔がゆっくりと綻ぶ。くしゃり、困ったように笑う審神者に歌仙はわかったよ、と答えるしかなかった。
 歌仙の言葉に安心した審神者はまた機械へと向き直る。大方、政府への報告書を作成しいているのだろう。日常の書類作成の類は普段、刀剣に任されることはなく審神者が行っている。
その姿を横目に歌仙は立ち上がり、開け放たれた障子を閉めた。換気は十分にされたということもあったが、真冬直前の外は冷え込む。ようやく太陽が上に昇り始めたとはいえ、それほど気温は上がらない。薄着でも平気そうな顔をして外を歩く審神者が、歌仙は心配の種だ。
相変わらず審神者は瞳を上へ下へと、左から右へと忙しなく動かし、打つ指の速度も変わらない。歌仙がこっそりため息を吐いたのも知らない。心配そうに見ていたのも知らない。審神者は案外鈍いところがあるのだ。
「主、時間は大丈夫かい?」
 頃合いを見計らって歌仙は声をかけた。審神者がはっとした表情で、部屋にある掛け時計を見る。
「大変、加州に怒られるわ」
「集中するのもいいが、もう少しメリハリも必要だよ」
「……歌仙には言われたくないわ」
 審神者のジト目に歌仙は視線を逸らした。歌仙自身も思い当たる節があるので、いつものように小言を漏らしたつもりが、反撃を食らう羽目になる。これは歌仙が悪い。機械の電源を落とした審神者はさっと立ち上がり歌仙に声をかけた。
「ところで歌仙、何しているのよ」
「ああ、さっきこの障子を開けたんだが、少し建てつけが悪くなっていてね」
 がたがたと動かしてみるものの、障子が数センチ収まらない。勢いよく入れ込もうとする歌仙の姿に審神者は危機感を覚えた。
「あとで、長谷部と陸奥守に頼んで直してもらうわ。今は向こうに行かないと」
 いつもより急ぎ足で厨房へ向かうとすでに堀川と加州、それから大倶利伽羅が準備を始めていた。トントンと小気味良い音は堀川の切っている野菜の音。コンロの前に立って、出汁を取っているのは加州。
大倶利伽羅はするすると大根の皮をむいていた。思わず呆気にとられていた歌仙は審神者が移動していることに気がつかない。
「やっと主きたー」
「ごめんなさい」
 審神者はいつの間にか加州の隣にいき、汁物の準備を手伝う。歌仙はいつも通り、献立表の貼ってある冷蔵庫の前で献立を確認する。あとから厨房に入ると何かと準備やら手順を確認しないとならないのが手間だ。
 確か、十振り程度しか残ってなかったはずだと頭の中で確認をし、少ない人数だからこそと思い、歌仙はこっそりデザートの準備を始めた。
 炊飯器めいっぱいに炊かなくてもいいのはどれくらいぶりだろうか。一台しか稼働していない炊飯器はもくもくと小さな狼煙をあげている。
 審神者は何かに集中すると口数が極端に減る。料理をしている時も仕事中と同じでそれほど喋らない。今日、厨房にいる刀剣達はそれなりに厨房に出入りしているものが多く、指示を出さなくてもそれぞれが分担してできるのだ。
 ただ、昼餉の準備に審神者が厨房に立つのはかなり珍しい光景で、歌仙は少し離れた作業台から審神者の姿を眺めつつ作業をしていた。
 不意に振り向いた審神者と目が合い、ふっと頬を緩めると審神者も同様に目を細めた。それから移動し始めた審神者に声をかけようとすれば、先に審神者が言葉を発した。
「歌仙、これ味見お願いできるかしら」
 差し出された小皿を受け取る。熱いから気をつけて、と気遣う審神者の声はいつもより不安そうだ。審神者が料理が苦手とは聞いたこともないし、そんな素振りは見たことがない。
「これは僕が好きな味だね」
「なら、良かったわ」
 心底安心したように言う審神者の姿が物珍しい。
小皿を戻そうと審神者へ手渡す瞬間触れた指先で弾かれ、パリンと甲高い音が和やか厨房に響き渡った。さっと青い顔した審神者が割れた小皿の破片に掴もうと腕を伸ばす。
「触らなくていい!」
 歌仙の鋭い言葉に審神者は思わず手をひっこめようとするも、歌仙の手が審神者の手を掴む。びくりと、見上げる審神者の顔は怯えとも取れる表情で、ようやく歌仙は冷静さを取り戻した。
「すまない。破片で君が傷を負っても治癒するには時間がかかる。こういったことは僕ら刀剣達がすればいいんだよ」
 ふう、と一息つくと審神者がでも、と言いかける。それでも歌仙は迷わず突っぱね、ほうきと塵とりを探しに場を離れた。
 大小さまざまに割れた破片は放射線を描いて飛び散っている。
「主さん大丈夫ですか?」
「……ええ、平気。ちょっとびっくりして、固まってただけだから」
 苦笑して答える審神者は力なく笑った。歌仙の鋭い声は戦闘時のそれを彷彿とさせるが、普段から彼は声を荒げるようなタイプではない。もちろん、怒ることもあるが、先程のようにぴんと空気が張り詰めてしまうほどの声音ではない。
 審神者が動揺するのも無理はないことだった。
 堀川は審神者に盛り付けをお願いすると、わかったわと一言返事をして移動する。その頃には歌仙も戻ってきていて、黙々と片づけを始めた。
 審神者は歌仙が片づける姿をじっと見ていたが、これでは盛り付けが終わらないと思い、視線をお皿に戻し作業に没頭する。
 盛り付けがひと段落したところで、炊きあがった白米の入った炊飯器が音を鳴らした。審神者が動こうと移動をし始めたところで、加州に引き留められた。
「主は広間にこれ持って、あと、内番している奴ら呼んで来てよ。あ! 歌仙も一緒についていってよ」
「わかったよ」
「別に歌仙がいなくても」
「あとは持っていくだけだしさ、そんなにいなくたってできるしさ、お願い!」
 審神者が目を丸くしている隙に決まってしまい、加州の得意げな表情に負けたのだ。諦めて渡されたお盆にのったおかずを運ぶ。
 歌仙もおかずの半分を持っていて、審神者の隣を歩く。
 先程のことから一人と一振りの間には何ともいえぬ気まずさが残っていた。この状況下で付き添いを提案した加州はどうかしているのではと審神者は思う。わざわざ歌仙でなくても、加州自身がついてくるのでも良かったのだ。むしろ、歌仙以外だったら審神者は笑顔で答えただろう。
 無言の空間は日常的にあることでも、今この瞬間だけは耐えがたく、審神者は何とか話題を振ろうとした。
「加州ったら、別に私一人でも大丈夫だったのに心配性よね」
「僕は加州が言わなくてもついていくつもりだったが」
 静かに告げた歌仙は審神者の横を通りすぎさっさと大広間へと入ってしまった。
「……それって、どういうことよ」
 思わず呟いた言葉は誰にも聞かれることなく廊下に溶け込んでいく。後を追いかけるかのように審神者も大広間へ入り、大机に並べた。
 お皿の向きにもこだわる歌仙は、人数の少ない昼餉でも気遣う。審神者はそれを横目に合わせて置く。間違えようものなら、歌仙から小言が飛ぶに違いない。付き合いも長くなってくれば、自然と分かってくることだった。
「主、早くしないとまた朝みたいに加州に怒られるんじゃないかい」
「分かってるわよ。さっき、歌仙が先に行ってしまうから……時差が起きたんでしょう」
 視線を泳がす審神者に歌仙は閃いたように、審神者の手をとった。ぎょっとして顔をあげた審神者の表情が可笑しく、歌仙はくつくつと喉を鳴らす。
「わ、笑わないでよ」
「すまない」
 全然謝罪をしているようには見えない歌仙は審神者の手を取ったそのまま内番をしている鍛錬場へ向かう方へ歩き出した。
真冬になりかけの薄日が差し込む廊下はぴいちく鳴く鳥のさえずりが響き、穏やかな昼を告げている。風にさらされて冷たい床板も緩やかに昇った太陽がゆっくりと温めていた。
 審神者の体温より少し高い歌仙の手は心地よく、ぬるま湯に浸かっているようだ。歌仙は明確な目的をもって手を繋いできたわけではないのは審神者にも理解できた。ただ、珍しく拗ねた審神者が物珍しかっただけだろう。この事が分からないほど子供ではない審神者は、微妙な心境だった。
 人間でいるこの行為は、特に親しい仲の男女間で行うと大分意味のある行為になるが、刀剣と人間では何も生まれない。審神者も別段気にしていなかった。スキンシップの好きな刀剣はよく審神者に抱きついたり、手を繋いだりするからだ。
「歌仙、私子供じゃないんだから、手なんか繋がなくても平気よ」
「そうかい? 君はたまにそそっかしいところがあるから、こうした方がいいと思ったんだが駄目だったかい」
「そそっかしいって、さっきのだって不可抗力じゃないの。……片づけてくれてありがとう」
「それくらい構わないさ」
 横目に見上げた歌仙はもう怒ってないようだった。審神者も先程までの霧がかった暗鬱な気分が、風が凪いで消えていくようだ。
 それとも、握られた手が思いのほか温かったからか。審神者が歌仙の手を握り返すと、おや、と楽しそうに歌仙は笑った。
「君のそんな反応が見られるなんて今日はいい日だね」
 歌仙の言葉の意図が分からず、審神者は首を傾げた。どんな反応とは反射的に聞くことができなかった。しばらく無言のまま廊下を進んだ。
「あれ、歌仙が来るとか珍しいな!」
「君たちがなかなか来ないからだよ」
 鍛錬場に着いた時、獅子王と陸奥守がまだ手合わせをしていた。呆れながら言葉を発したのは歌仙だ。陸奥守はほお、と言いながら審神者へ詰め寄る。
「なんじゃあ、おんしらいつの間にそげな関係になったがか?」
「なんのことよ」
 目を丸くする陸奥守に審神者は目を丸くする。おんしら、つまり歌仙と審神者のことで。審神者はとっさに歌仙と繋いでいた手をぱっと離した。陸奥守にはそのように見えていて、自分たちが意図しないところで周りからは勘ぐられていたという証明だった。
 にやりと愉快そうに笑う陸奥守に気がついた歌仙が助け舟を出してくれた。
「こら、主をあんまりからかうもんじゃないな。ただ僕がそそっかしい主を繋いでおいただけなんだから」
「本当かえ? おまんのことだから、もっと悪うこと考えているのかと思ったぜよ」
 余裕そうに挑発をする陸奥守に歌仙はまだ何かあるのかいと煽っている。普段は二振りともそういったことはしないくせに、どういう風の吹きまわしだ。
 歌仙と陸奥守を交互に見ても、目の奥に宿る光に審神者は戸惑うばかりか、ひどく狼狽した。何の話をしているのか審神者には見当がつかなかった。そればかりか、自分の周りで何が起きているのか理解ができていない。
 声をかけようにも、かける言葉が見つからないのだ。二振りは審神者のことについて言っていることは分かるが、どうしてこのような雰囲気になるのか。
 審神者が本当に困った様子だったところに、ちょんと肩をつついたのは獅子王だった。
「なあ、あいつら放っておいて、昼食いに戻ろうぜ。ああなったら、あいつらしばらくは帰ってこないだろうしな」
 にっと、太陽みたいに明るい笑顔の獅子王に審神者は強張ったままの顔で頷いた。それが今一番良い方法だと思ったし、ここで発言をしたからと言って、彼らが審神者の言うことを聞くかと問われれば違うからだ。
 獅子王が軽快に先に行くからなと出て行き、審神者も同じように鍛錬場を後にした。残された歌仙と陸奥守はひとしきり睨み合い、ぽつりと一言。
「おんしも難儀じゃな」
「あれでいいんだよ」
 不敵に笑う歌仙に陸奥守は苦い顔を浮かべた。
「少しばかり、手合わせをしたいね」
「なんじゃあ、昼餉にはいかんつもりかえ」
「まさか。少しだけさ。どうぞお手柔らかに頼むよ」
 スイッチの入った歌仙はどこか手をつけられないところがある。そもそも、火をつけてしまったのは陸奥守のほうなので、昼餉は食いっぱぐれるかもしれないと危機感を抱きつつも、臨戦態勢に入った。

 太陽が空の真ん中を通りすぎ、傾き始めた頃、審神者はある部屋を訪れていた。
「いつまでそうしているつもりですか」
 厭味ったらしいねちっこい話し方をしたのは宗三左文字。気だるげに目の前の審神者に目線を移す。
 審神者は膝かけを頭からかぶり、体育座りをしていた。宗三の部屋に置いてある炬燵にも入らず、火鉢の前にいた。困ったことがあると、必要以上には勘ぐりも興味も示さない宗三の元に訪れる。宗三もまた、ここに来た審神者に、何事かと尋ねる無粋なことはせず、審神者が話し始めるのを待っていた。ちなみに審神者がかぶっている膝かけは、宗三がこの本丸に来てから使用し続けている愛用の品だ。
「……宗三は私と歌仙の関係はどう見えている?」
「は? 貴方、どこか頭でも打ちましたか」
「真面目に聞いているのよ。みんなして、勘ぐっていたなんて信じられない」
 顔は見えないが膨れっ面が容易に想像できた。宗三はゆっくりとした動作で審神者に近付き、膝かけを剥いだ。
「林檎みたいな顔してますね」
「見ないで」
 顔を隠せるものがなくなってしまい、審神者は両手で顔を包む。
隠しきれない指の隙間から真っ赤になった顔がちらりと覗かせていた。
元々、審神者は感情の起伏が激しい方ではなく、どちらかと言えば穏やかな気質だ。時折、歌仙に小言を言われ、応戦するも、ただの戯れのようにしか見えない。
 それがどうしたことか。ここまで感情を露わに、顔に出すなんて信じられるだろうか。どこか一線を置いて接する姿は、初めてこの本丸に来た刀剣によってはそれが冷たく見えるものもいるというのに、目の前の審神者は隠そうとする素振りも見せない。
「僕からしてみれば、貴方達の関係なんてこれっぽっちも興味はないのですが、今みたいなものが見れるなら観察するのも悪くないでしょうね」
「私の質問の答えになっていないわ」
「だって気がついているのではないですか」
 宗三の言葉に審神者は狐につままれたような顔をした。審神者の表情は、一体、何に気がついているのだと言っている。その様子に宗三はもしやと言い知れぬ考えが過り、悪い予感が当たらぬようにと思いつつ審神者に質問した。
「その耳まで赤い顔はなんだっていうんですか」
「……これは恥ずかしいから。まさか、みんなが勝手に勘違いしているとか、私は別にそんなつもりはないし、大体、歌仙だってそんなこと考えていないわよ」
 恥ずかしいだけ。ただそれだけで顔を赤くするとは意外な発見だった。普段からはとても想像できないが、相当心の内を乱されているは間違いなかった。それだけにここまで恋愛方向音痴で鈍感だと、歌仙も浮かばれないなと宗三は苦笑した。
 本人だけ自覚しないまま、展開だけはどんどんと進んでいき、退路などないに等しい。第一、歌仙に目をつけられた時点で逃げ場などないのだ。それを不運だというならば、審神者は歌仙を選んだ時点で決まっていたも同然だった。時は戻せず、進めることしかできない。
 歌仙はすでに一歩進んでいる。次は審神者が動くか次第で展開は決まるのだ。
 赤い顔をした審神者は眉をハの字にして、ゆったりと言葉を紡ぐ。
「だから、宗三にも聞いたのよ。どう見えるかって」
「お似合いだと思いますよ。他のものも喜ぶのでは」
 投げやりな宗三の言い方に反応する前に、審神者は言葉の意図を考えてみる。色々な刀剣達の話から、歌仙と恋人同士なのではと好き勝手に揶揄されていたのは理解できたが、まさか宗三にまで言われるとは思わなかった。
「みんなして勝手だわ」
「ええ、勝手に言いますよ。気がついてないし、鈍感で恋愛方向音痴で、相手を振り回しているのが貴方ですから、それはもう言いたい放題に決まっているじゃないですか。僕だったら流石に諦めますよ。それでも歌仙は貴方がいいみたいですけど」
「歌仙が? そんなわけないじゃない。歌仙は私の初期刀だけれど、小言も多いし、雅にはとんと煩いわ。でも、歌仙はすごく沢山助けられているし、いつも支えてくれて私の足りないところを教えてくれるけれど」
「貴方がよく見てないだけで、歌仙はちゃんと示してくれているのではありませんか」
 宗三の言葉に審神者は目を逸らす。火鉢がぱちと小さく爆ぜる音を立てた。今日の宗三は確信ばかりをついてくる。いつもなら、審神者の話を聞くだけ聞いて、貴方はどうしたいのですかと問いかけるだけだ。
「はあ、どうも今日の貴方では解決しなそうですね。何なら、歌仙に直接聞いてみればいいじゃないですか。そうすれば解決しますよ」
 面倒くさそうな割にきついことを言うあたり、審神者を主として全然敬っていないように見えるが、提案してくれただけ良いだろう。審神者が実行するかどうかは別としても、宗三からすればいい加減、丸く収まってくれることを願っていた。
 審神者が決まってこの部屋にくるのは、歌仙と何かがあった時と決まっているのだ。この部屋で困った顔をして、歌仙との喧嘩やら、どうしたら喜んでくれるのかと散々聞いたのだ。聞き役は決してつまらない事ではなかったが、審神者が歌仙に惹かれていることなど分かりきっていた。
「直接本人なんかに聞けるわけないじゃない……」
「どうしてですか」
「勘違いしている女に思われるわよ」
「好きでもない男に聞くのだから問題ないでしょう」
「そ、それとこれは別かと」
「まさか。友人に聞くように訊ねるだけです。なにも邪なこともない」
 ほら、と言う宗三に審神者はあからさまに困った表情をしだす。言い訳を探すように考えあぐねていた。
「いい加減認めたらどうですか。貴方が好きなのは歌仙兼定。それ以下でもそれ以上でもなく、ずっと隣にいてくれた初期刀が好き。それでは駄目ですか」
「駄目って……そういうことではないでしょ。認めるとか、認めたいとかということでもないし。それに、今日の宗三が優しくない。いや、最初から優しかったことなんてないけど。今の言葉は衝撃が大きすぎるわ」
「自分のことをおざなりにしすぎるからです」
 体育座りをした膝に顔を埋めて、審神者ははあーと長い溜息を吐いた。
おざなりにしているつもりなど自覚しようがない。そもそも、自覚していたら本丸中に勘ぐられることも無かったし、勝手に自己解決をしていただろう。
 歌仙は審神者の初期刀で、本丸に来た頃からの様子を知っている唯一の刀剣だ。審神者からの信頼も厚く、審神者も彼の細やかな気配りから戦闘での活躍もかっており、審神者にとってなくてはならない存在だ。
 数えきれない程のやりとりと、表情、声が浮かんでは消えていく。再び審神者が顔をあげた時、宗三はいつもと変わらない表情で審神者を見つめていた。
「で、自覚はできましたか」
「自覚するしかないわよ」
 火鉢の前から炬燵へ移動した審神者は炬燵の上にあるみかんへ手を伸ばす。宗三も寒さの限界だったのか、審神者の目の前に座り炬燵へもぐる。
「ねえ、宗三」
「なんですか」
 審神者はみかんの皮をむきながら話題を振る。今はもう、先程までの慌てた様子も、困った様子も見受けられなかった。みかんを口に放り込んで一言。
「このみかん甘いわね」
「お小夜がお裾分けしてくれたんです」
 ゆるりと微笑む宗三に審神者もまた、ゆっくりと目尻を下げて微笑んだ。