風花が翻す
しんしんと降り積もる雪の庭をぎゅっと踏みしめる。この本丸にも本格的に冬が到来した。粉雪のようにさらさらな雪は一切の音を吸収していく。生き物の声も聞こえない無音の世界。そこなら、逃げられるような気がしたのだ。「おや、こんなところにいたんだね」
審神者はいつも歌仙と出くわす池で降り積もる雪を眺めていると、今日は珍しく歌仙が遅れて池の淵にやってきた。番傘にうっすら積もる雪が、本丸の玄関からの距離を示している。
「やっぱり僕の思ったとおりだ」
審神者の頭に積もった雪を散らし、持ってきた桜色の襟巻をぐるぐると巻きつけた。審神者が渋い顔をするのもお構いなしに首元を温めようと専念している。その間、番傘は審神者が持っており、歌仙の頭の上に重なるように腕を伸ばしていた。
「こんな寒い日に外に出なくてもいいだろうに。鼻の頭も真っ赤になっているじゃないか。頬もきんと冷えている」
歌仙はぶつぶつと呟きながら審神者の頬を両手で包む。審神者は相変わらず表情を返る様子もない。
しかし、あまりにも審神者に動きがないので歌仙がじっくりと覗きこむと、審神者の瞳が揺れ動く。
「近いのは駄目だって前に言ったじゃないの……」
「まだ駄目だったのかい」
審神者のぼそぼそと話すそれは、想いが通じあった時に繰り返した押し問答で判明したものだった。審神者に触れる機会が増えたものの、時々固まってしまうのは緊張するかららしい。
歌仙が審神者に触れるのは決まって出陣から帰ってきた時だった。今日は、審神者の奇行に訝しんだ故の行動だったが、平時ならばあまり触れないのである。審神者には決して言わないが、歌仙も触れる時は多少なり気遣っていた。
「僕は君の事をいつまでも好きでいられるけど、触れることを制限されて待てる程ではないのは分かってほしいよ」
苦笑しながら歌仙はするりと審神者の頬から両手を離す。急に消えた温かさに感情まで抜け落ちてしまうのではと審神者は思ってしまう。実際はそんなことはあり得ないのだが、身体が緊張するのと逆に心が引き留める。それぞれが別の方向を向いていた。
「善処するわ」
「楽しみにしないとだね」
真っ白い息を吐きながら歌仙は嬉しげに言う。その様子に審神者はようやく微笑んだ。
山茶花の生け垣を抜けた先に設えられた池は、現在水は凍り、上には雪が降り積もっている。石枠の上にも積もっており、じきに境目も見えなくなってしまうだろう。石の上には小さな雪うさぎがいくつもつくられていた。丁寧に山茶花の葉を耳に、目には南天の赤い実が付けられていた。
「主、もしかして雪うさぎを作っていたのかい?」
「ええ、誰かが見つけたら面白いかなと思ったのよ。予想通り、歌仙が一番最初だったけれど」
「日に一回は来るからね」
審神者の手に収まる程度の小さい雪うさぎ。雪が降り積もる庭は情緒にあふれているがどこか寂しい。その庭に突如現れた、深緑と紅色が鮮烈だった。
「それで、これを一つお盆に載せて部屋におこうかなと思っていたのよ。少しは楽しいでしょう?」
玄関先に置いておけば溶けても邪魔にならないという審神者の提案で一つだけ玄関まで持っていくこととなった。
先程まで審神者が持っていた番傘は歌仙が持ち、審神者の手には小ぶりな雪うさぎが収まっている。少しずつだが、毎日降り積もる雪のせいで道は進みにくくなり、深くなっていく。
自然と歩く速度も通常に比べてゆっくりだ。
「そういえば、君は僕と出会った最初の日を覚えているかい」
「急にどうしたのよ」
「こんな大雪になってきたからふと思い出してしまってね」
「忘れるはずもないわ。……きっと、一生忘れることなんてできないの」
審神者は瞳を伏せる。悪い思い出ではなく、衝撃的で絶対に忘れることは許されないような強烈な瞬間。普通に生きているだけでは出くわさないような経験で、審神者はそこから戻ることのできない非日常へ飛び込んだのだ。
「歌仙こそ覚えているの?」
「もちろんさ。君が主で良かったよ」
「本当にそう思っているのかしら」
散々小言を言われた審神者としては、どうだかと疑問に思うのも無理はない。今でさえ、口煩く言われるのだから、歌仙は時々母親のようだ。正直に伝えると歌仙は怒るかもしれない。
「思ってなければ君に恋をすることも、愛することも無かったと言えるよ。それに、仲間の為に睡眠を削ってまで出迎える姿や、出陣を見送ってくれるし、良いところばかりで自慢の主だよ。わかっただろう?」
とびっきりの歌仙の誉め言葉に審神者はどう反応するのが正しいか考えてしまった。素直に喜ぶのでも良かったが、それでは主としての威厳が保てない。だからといって、こんなに誉めてくれ歌仙に対して無粋な態度も取れない。
「わかったけれど、そんなに評価してくれてたのね」
「あとは、無理をおすところを直してくれれば安心さ」
「……それは無理なお願いね。戦場に出れない私ができるのは、どんなにぼろぼろになっても戻ってきてくれた貴方たちを労うことしかできないもの」
無理な進軍はせず、必ず全員が帰還することを審神者は各刀剣達に徹底している。本丸に着任してから変わらない方針は、新たな刀剣が増えても同じだ。じっくりと時間をかけて説明をし、部隊長の裁量に合わせるようにも伝えている。
「それに、何かあったら歌仙が助けてくれそうな気がするの」
得意げに笑った顔に歌仙はそうだねと頷いた。玄関の引き戸を開け、あらかじめ準備していたのか、靴箱の上には小さい丸いお盆が乗っていた。
「主それなに?」
「雪うさぎよ。さっき庭で作ってきたの。ここに飾っておくのよ」
もこもこの靴下を履いて通りかかったのは乱藤四郎だ。お盆に乗せたばかりのものに興味深々だ。審神者がにこやかに答えている後ろに歌仙が控えていることに気がつき、乱は審神者にこっそり耳打ちをする。
「主、もしかしてデートだった?」
「……からかわないでよ」
目を見開く審神者はとたんに歌仙の顔が見れなくなってしまう。そもそも、審神者が恋というものを自覚してからの期間が短い。それも、今までの人生の中でも恋の経験が極端に乏しい。
一般的に、審神者のような妙齢の女性ならばある程度の経験値があるのだが、審神者はどうやら著しく欠落していたらしい。
その事に気がついたのが自覚してからなのだから、どうしようもないのだ。乱は審神者の反応が面白くてつい言ってしまいがちで、審神者の知らないところで一期一振に窘められている。
「乱、覚悟はいいか」
しばらく黙りこんでいた歌仙はゆっくりと言い放つ。
「きゃー。歌仙さんに怒られそうだから、ボク戻るね」
じゃあね! と元気よく通り過ぎっていたのを見送ってから、歌仙はしゃがみこんでいた審神者と同じ視線まで腰を降ろした。
「あとで、手合わせしないとだ」
審神者の隣で歌仙が物騒な一言を呟く。きっと、鍛錬場が少しでも空けば乱を連れて文字通り手合わせをするだろう。
審神者が横目にちらりと歌仙を見ると、言葉とは裏腹に花が綻ぶような笑みを浮かべていた。正直、こういう表情をする時の方が歌仙は性質が悪い。きっと、事あるごとに他の刀剣が審神者に、歌仙との間柄についてちょっかいをかけているのを知ったら全員並べて、白刃戦になりそうだ。
「歌仙と少し庭を歩いていただけなのに、デートだなんて大げさよねえ」
落ち着いた審神者がくすりと言えば、今度は歌仙がぽかんとしていた。
「……どうかしたかしら?」
「今度はどこかに出かけるのでもよさそうだね」
歌仙からの思わぬ誘いに審神者は一瞬遅れて頷いたのだった。
「約束よ」
框を上がった審神者は振り向いた。歌仙には柔らかに微笑む審神者の姿が眩しく見える。
「本当に困った人だ」
歌仙が審神者に対して間合いを詰めるよりもよっぽど審神者の方が歌仙を振り回して、心をかき乱していることに気がつかない。それでもいいと思っている歌仙は存外審神者に対して甘いのだった。靴箱の上に置いた雪うさぎの横に歌仙はこっそりと真っ赤な寒椿を添えてその場を後にした。
洗面所に設置された鏡を前に審神者は、幼子みたいだと思った。耳も頬も鼻の頭も真っ赤になっている。歌仙に心配されるのも頷けた。つい、雪うさぎを作成するのに夢中になってしまい、防寒の事など頭の中から抜け落ちていたのだ。
蛇口をお湯の方へ捻り、お湯が出てくるのを待った。悴んだままの手では仕事のしようもなく、ましてや外から戻ったのに手を洗わないはずがなかった。
ざあ、と流れ出る水はぬるま湯からやがてお湯へと変化する。手をつけるとじんじんと熱が戻ってくる。石鹸で丁寧に洗い、手洗いはすぐに完了した。
先程、歌仙にぐるぐると巻かれた桜色の襟巻を外し、折りたたみながら大広間に顔を出す。暖房設備は各部屋に整えているが、掘り炬燵で大きい机を設置しているのは大広間だけだ。
外が寒すぎるせいか、最近はこの部屋に集まっている刀剣が多い。案の定、非番を言い渡していた刀剣達は集まっていた。
「主殿は外にいたのか?」
「ええ。つい日課で出てしまうのよ」
障子の前で立ち往生していると後ろからやってきた山伏に声をかけられた。内番の服装から、おそらく今日も鍛錬をしていたのだろう。この刀剣は特に何か言い渡さない限り、朝は鍛錬を欠かさないのだ。
「そうかそうか。しかし、主殿は女人であらせられる。風邪には気をつけよ」
「そうするわ」
立ち話を済ませ、山伏と別れた審神者はいつも通り執務室へ向かう。今日は比較的ゆったりした仕事の進みのため、一週間程度の編成の予定等、主要な刀剣達と話し合いの予定になっていた。
執務室へ向かう前に先に自室へ寄り、部屋へ持ち込んだ資料を回収する。昨日の夜に考え事をするために持ち込んだせいで、寄り道が増えてしまった。
予定していた時間よりも少し遅れた審神者が執務室へ入ると、すでに声をかけていた刀剣達は集まっている。少し大きめの机をぐるりと囲むように座っているそれぞれは、審神者の発表待ちだ。
「始めましょうか」
今日の近侍は加州を指名していたので、進行役は加州になり、話し合いは進められるのであった。
話し合いから解放されたのは午後になってからだった。ぐっと背筋を伸ばすとぱきりと凝り固まっていた部分が鳴る。肩を回して、ようやく解放された気持ちのまま縁側に向かうと、びゅうと強い風が吹いた。
水分の少ないさらさらとした雪が吹雪くかのように巻きあがった。
「歌仙と出会った日もこんな天気だったなあ……」
誰もいないことをいいことに独り言を言ってみる。今朝のやりとりで、思いだしたことがあったのだ。
寒い寒い冬の日。審神者なる者に任命され、審神者はこんのすけだけを従えてこの本丸にやってきた。今よりも深く積もった雪のせいで、玄関が開けにくかったことさえ覚えている。
本丸の中を説明されるよりも先に、初期刀を選ばなくてはならないということで審神者は悶々と一時間以上考えこんだのだ。
事前の研修で選べるのが五振の打刀からだということは覚えていた。しかし、たった五振から選択するので本当に良いのか、甚だ疑問だったのだ。
あまりにも時間をかけすぎてこんのすけにせっつかれながら選択したことは記憶に新しい。
最初に目に留まった刀が歌仙兼定だった。熟考の末、選びとった刀は瞬く間に桜の花びらを乱舞させ、顕現したのが今の歌仙だ。柔和そうな顔立ちから優しいのかとばっかり思っていた審神者が、苦虫を潰すような気持ちになったのはそれから数日後のことだった。
冷たい空気が審神者の肺に届く度に鮮明に呼び起される記憶は、人生の中ではそれほど前ではないのに、随分と昔のことのように感じる。
ほうと吐きだした息が真っ白になって空に溶けていく。雪の降り続く外気はどこまでも冷たい。それでも、いつまでも見続けていても飽きない光景だ。
雪がしんしんと積もっていく様子をどれくらい見続けただろうか。
「またそうしている」
歌仙が広間へ続く廊下の方からやってくる。手には湯のみが二つあり、きっと審神者が執務室にこもりきりなのを知って、様子見に来たのだろう。
本当なら休憩をしないかと提案するつもりだったことも審神者には簡単に予想ができた。
「雪って見ても見ても飽きないの。不思議ね」
「君は、雪の珍しい場所にいたのかい?」
審神者は首を横に振る。生まれ育った土地はこの本丸ほど雪深くはないが、毎年数回は雪が降りつもる地域だった。雪がとても珍しいと言われるような場所ではない。
「きっと、ここで見る雪は特別だと思うの。忘れられないことが多すぎるから。……今もそうよ」
ふふ、と笑った審神者に歌仙も納得していく。
「僕も同じように特別かな」
湯のみの一つを審神者に差し出す。熱い緑茶が入っており、今のうちに飲んでしまった方が、身体が温まる。審神者はそれに口をつけた。
「あつっ」
「そんなに慌てて飲むからだよ」
「だって、温かいうちの方が美味しいし、今になって寒くなってきたわ」
飲み込んだ緑茶によって、急に持ち込まれた温もりが審神者を現実に引き戻した。そのおかげで審神者は随分と冷えた身体を自覚したのだ。
「部屋に戻ろう。これ以上冷えたら、流石に引っ張ってでも連れ行くんだけどね」
歌仙がまだ優しいうちに部屋に戻る方が得策だと判断した審神者は早々に部屋に戻る。暖房をかけたままだった執務室は、外と比べて数度高い。
話い合いが終わったままになった机を審神者は片づけ始めた。散乱した資料を失くすと後々困った事態になるのは経験済みだ。
ただ重ねてあるだけの書類を手元へとかき集め、それぞれを確認していく。ただ置いてあるだけは箪笥の肥やしと同じになってしまう。
戦績の詳細を記載した書類等、重要な書物も多い執務室は整頓されていないと意外と使いにくく、審神者は定期的に掃除をしていた。今日の話し合いのおかげで決まったことも多く、掃除をするにはちょうどいいだろう。
片づけをしながら審神者はいつ頃片づけを敢行しようか考えてみた。引き出しやら、箱に書類を仕舞いこみ、ようやく綺麗になったところで審神者は炬燵に入った。
「あとでこの部屋も掃除しないとね」
「そんなに掃除をしていないのかい」
「段取りに一区切りついたし、資料を片づけるついでにした方が楽だからよ。たまにした方がいいわ」
執務室に入る刀剣は限られている。別に入ってはいけいないと言っているわけではないが、何となく本丸の奥にあるからか本当に用のある刀剣しかやってこない。
わざわざ執務室でなくても会話はどこでもできるので、刀剣達も緊急でない限りこないのだ。それだけに、部屋がものすごく荒れることもなく、審神者からの鶴の一声で掃除が決行されるのだ。
「それじゃあ、三日後に掃除をしようかしら。あとで、声をかけないと」
「まさかそこに僕は入ってないだろうね?」
「入っているに決まっているわよ。もし、捨ててはいけないものがあったら一応歌仙に聞きたいと思ってるもの」
歌仙が微妙は表情をする中、審神者は爽やかに告げる。すがすがしいまでの決定事項に疑問すら浮かばないのだ。
審神者が手元にあった紙に必要事項をまとめている姿を見て、歌仙は諦めるという選択肢しか存在していなかった。
「君が唐突なのは今に始まったことではないからね。どうせ、その紙に書いてあるものにも伝えておけばいいのだろう」
「助かるわ。ありがとう」
柔らかく微笑んだ審神者に歌仙は呆れつつも許している。溜息も、呆れ声も出しはしない。嬉しそうな表情を浮かべる審神者の姿だけで、何だかどうでもよくなってしまう時があるのだ。歌仙はそれが惚れた弱みなのだと受け入れていたし、今後もそうして続くのが予想できた。
「君が楽しそうなのが一番だよ」
「急にどうしたの?」
顔をあげた審神者は不思議そうな表情をしていた。
「ふと思っただけさ。悲しい顔は見たくないからね」
「じゃあ、沢山笑って過ごさないといけないわ。そのためには、歌仙がいないとよ。貴方も笑って一緒に過ごすの。それが一番よ」
思わぬ審神者の口説き文句に歌仙はどうしようもない気持ちがこみ上げてきた。背筋から這い上がるそれは、顔を赤くさせるのには十分だった。
「君は本当にずるい人だ。後で覚悟してほしいな」
「もう、歌仙の方がいつも恥ずかしいことばかりしてくるでしょうに。たまにはそれでいいじゃない。おあいこよ」
指摘をされてしまえばそれまでで。歌仙は気を落ち着かせる為に緑茶を飲みこんだ。
「恥ずかしいことだって君は言うかもしれないが、僕はこれでも譲歩しているつもりなんだが」
「今朝も言ったことを二度も言わせないでよ。まだ、緊張してしまうのよ」
軽い触れ合いをするだけで緊張してしまう審神者は、普段の様子から考えると初心だ。純情、可憐、愛らしい。審神者の反応を表現するならそんな言葉があてはめられた。
でも、と歌仙は思う。審神者は時々大胆なところもあるので、ある程度慣れたらたたみ掛けてしまっても受け入れてくれるんじゃないかと勘違いしていまいそうになるのだ。普段の冷静の思考なら絶対に踏み外しそうもないことも、雰囲気に呑まれてそのまま、なんてことも考えられた。もしかしたら、頬を殴られるかもしれないと頭の中で考えつつも、実際は実行もできないのだろうなと内心で苦笑したのだった。
「待つのは慣れているからね。いざって時には遠慮しないようにするよ」
「考えておくわ」
ふい、と逸らされた顔は審神者の照れ隠しだ。その様子に歌仙はゆっくりと進む穏やかな時間が心地よく、このまま続いていってほしいと願うばかりだ。
優しい、仲間思いの審神者が自身の隣で微笑み、歌仙も戦の合間に審神者と緩やかに時を重ね合わせられればと思う。
きっと、どこかで叶わぬような気がしていた想いも通じたのだ。
どんなに困らされても、呆れることがあったとしても、やはり審神者の隣には自分がいたいと歌仙は強く思う。
「主、もし明日晴れたらでかけるのはどうだい」
「そうね。何か入り用なものとかあったかしら」
「いや。君とでかけたいだけだよ」
そこまで歌仙が告げて、審神者はようやくデートのお誘いをされているのだと気がついた。いつも色恋沙汰は理解するのが遅く、返す反応も遅くなる。
理解したとたんに嬉しくなり、にやけそうになる口元を悟られないように審神者はできるだけ冷静に言葉を返す。
取り繕っているようで、歌仙にはそういったところは見抜かれており、どうあがいても無駄なのだ。
「楽しみにしてもいいかしら」
「もちろんだよ。今はあんな天気だが、きっと晴れるよ」
審神者の嬉しそうな表情に歌仙も嬉しくなる。
きっと、数時間後にはまた隣同士で歩くのだろう。その光景も本丸では珍しくもない。それに、外に出ても誰も不思議には思わない。
いつもよりも少しおめかしをした審神者の姿といつも通りの歌仙の横を通りすぎる人々は気がつかない。
でも、確かに審神者と歌仙は仲睦まじく寄りそうのだった。