※10年後

匣兵器が一般的になった今、術師もより高度な幻影を生み出すのにリングの力を借り、匣兵器に頼っている。下手くそな術師が使用できるのほランクの低いものであるから、どちらにしても力のある術師が強いのには変わりない。目の前の男も例に漏れず、高ランクのリングを複数所持している。愉快そうに笑う姿は鼻につく。
そういえば、自分の直属の上司も、強い上に高ランクのリングを所持している。

「どんどん突っ込んでいくのやめてもらえますか。足でまといです」
「嫌です。今回の任務は、このファミリーの制圧です。こちらの将はあなたなのに、ずかずかと出ようとするからでしょうに」
「生意気な」
「どうとでも言えばいいじゃないですか。後でボスにねちねちと言われるのは六道さんですからね」
「まあ、それも一興でしょう」
「変態なんですか」
「失礼な。……無駄な口はしまっておきなさい」
「はいはい」

一向に終わらない戦闘。会話をしながらも襲いかかるそれを薙ぎ倒していく。
この六道骸という圧倒的な強さを誇る人間は、敵のど真ん中でドンパチ始めても死なないし、むしろ敵将の首を持ってくる位するのは分かっていた。
ただし、それはこちらが不利になってきてからでいい。今回の任務は敵ファミリーの制圧だが、敵将を表に引きずり出し降服させればいいのだ。間違っても殲滅ではない。歴代ボスの中でも現10代目ボスはプリーモの再来と謳われ、穏健派である彼はむやみな殺生は好まない。それを守護者である六道さんが行ってしまえば部下の命が危ない。もう少し危機感を持って欲しいものだ。
六道さん以外の守護者はいないし、今日はクロームも、千種も犬もいない。元々3人に彼を止められる程のものはないが、それでも思い止めさせるだけの強い絆がある。私には、そこまでのものは持ち合わせていなかった。
……ボスに直接任務を言い渡されたのにはそれなりの理由もあるだろうが、この状況ではどうにも頭数合わせかなあとよからぬ事が思い浮かんだ。

「名前、僕はこのまま敵将のとこまで行って交渉してきます」
「まさか、ここ突き抜ける気ですか!?」
「貴女なら道を作ることくらい容易いでしょうに」

不遜な微笑みを付けて言う背中合わせの男にため息をつきながら、武器のほうへ力を集中させる。まったく、無茶な要求をする人だ。これ、ボスに知られたら怒られるだろうなあと思いつつ、目の前の男に従うしかないのだ。それくらいの諦めが付くくらいにはこの人と共闘してきたのだから、自分もつくづく運がないと思う。

「感謝しますよ」
「……どうも」

薙ぎ払われた一筋の道を悠々と歩いて消えた六道さん。荒い息の私に小さく感謝をしたのに驚いたが、がくりと膝から砕け落ちそうになる自分の体を支えるので精一杯で、気の利いた一言など言えなかった。
周りに部下が駆け寄ってきて、晴れのリングを所持した人から治療を受ける。
次の動きをどうするかは、六道さんがいない今、私が引き受ける形になっていた。周りの部下に各指示を与えて一番近くにいた部下へ声をかける。

「私は六道さんのあとを追います。残りの敵の処遇は先程伝えた通りです」
「ですが、名字さんはまだ治療が」
「それでも行きます!あなたは自分に与えられた任務を果たして下さい」

制止をする部下に耳を貸さずに、屋敷の最深部へと進む。所々、霧のリングの波動を感じつつ入口から一番奥に構えられた部屋へと入った。

「おや、現場はどうしたんですか」
「あらかた鎮圧してきました」
「仕方ないですね」

今回の敵はボンゴレに対して反逆行為を行った故に、守護者率いる部隊での制圧戦。
目の前にいる男はファミリーへ大罪を行った張本人である。制圧にきたのが、六道骸だということは思いもよらなかったらしい。それもそのはず。今までは、獄寺さん率いる部隊で行っていた。

「なぜお前がここに」
「クフフ、それは貴方が無知だからでしょうね…雑魚には用はありません」
「六道さん!!」

三叉槍を振り上げた六道さんに制止をかけようとして叫んだ。それも虚しく、ぱたりと倒れる敵のボス。

「殺してはいませんよ」
「……一瞬目が本気だったのでそのまま殺すかと思いました」
「それでも良かったですよ」

男を拘束して、ボスのもとへ突き出すための準備をする。細かい処遇はその後だと予め言われていた。周りの老人からは甘いの何だと文句を言われるが、ボスに近しい部下は彼の考えに賛同している…私の隣と直属の上司以外は。
別部隊が到着するまで、六道さんとは無言の時間だった。

「……貴方が来なければ」
「え?」
「多分、あの男を排除していたでしょう」
「そんなことしたら」
「ええ」

それこそ裏切り行為です、と何でもないように言う。六道さんが守護者になった経緯までボスから聞かされ、上司からもうるさいくらい話を聞いている。じわりと手のひらに嫌な汗をかいて、ぎゅっと握り締めた。

「ボスは、六道さんのこと恨んではいないでしょね。あなたがマフィアを嫌っていても、10年前仇をなした敵だとしても」

私も、嫌悪はしていない。ただ、この人だけ孤独のまま生きている。同じ戦線に加わる度に思うそれは、日増しに肥大化していく。誰かが優しく手を差し伸べないと、どこまでも闇へと行ってしまうのだろう。

「貴女は人に甘くて嫌いだ」
「……あーそうですね。でも、六道さん私のこと言うほど嫌ってないでしょうに」
「自惚れるのも大概になさい」
「いえ、もう少し自惚れておきます」

そうすれば、まだこの世界にあなたを繋ぎ止められるかもしれないので。


2015/01/02