「これ、あげる、その、ぎ、義理なんだからねっ!」
俺にきれいにラッピングした袋を渡す彼女はそう言ってダッシュで逃げてしまった。
いつもくれそうな雰囲気とか全くなかったのにさ。
高速で逃げていく彼女に俺が追いつけるはずもなくて。そもそも彼女──名前は女の子らしくお菓子づくりが趣味みたいな子ではなく、外で動いてガッツリ汗をかく方が好きなのだ。そんな女っ気があまりない名前がチョコをくれるとは思っていなかった。そしてくれたチョコは義理、らしい。あの言い方だと少し期待したくなるような感じもあったが。というか俺が期待したかっただけだ。しかし、目の前にあるチョコが現実だ。
俺は仕方なく家へと帰ることにした。
名前からチョコがもらえただけすごく大きな変化なのである。
「ただいまー」
いつも通り母さんがお帰りなさいと笑う。チビたちがきゃっきゃっしながらまとわりついてくる。フゥ太がにこっとしながら言った。
「ツナ兄、お客さんがきてるんだよ」
「お客さん?」
「うん!」
「名前ー!ランボさんと遊ぶんだぞ!」
フゥ太の一言にランボが反応して、叫んで向こうの部屋へと入っていく。それに続いてイーピンも走っていく。もちろんフゥ太も2人を追いかけて走っていく。
「え、名前?」
俺はというと、状況が理解できずにいた。回転しない思考の中、俺はチビたちが入っていく部屋につづいた。
「お邪魔してます」
「うん、どうしたん?」
「……あ、ええと……」
目を泳がし始める名前。
キョロキョロしつつ、膝に乗せていたランボやイーピンの頭を撫でている。けれども、未だに動揺している。明らか様子がおかしすぎる。
「チョコ」
「チョコ?」
「うん、……食べてくれた?」
「まだだけど」
名前は少しもじもじしている。そしてまだ、目を泳がしている。一応ランボ、イーピンやフゥ太もいるんだけどな…。3人には悪いが、この先どういう展開が待ち受けているかわからないので、名前を引っ張って自分の部屋に入った。
「名前さあ、さっきから変だよ」
「へ、変じゃないっ!ていうか、早くチョコ食べてよ!!」
「え、あ、うん」
顔を真っ赤にさせながら名前が言うのでそれに従った。きれいなリボンや可愛らしい袋を使ってラッピングされた袋を丁寧に剥がすと、でてきたのはチョコブラウニー。女っ気のない名前にしては意外なほどに完璧なまでに作られていた。名前を見ると、少し心配そうにしている。
ブラウニーを口に運ぶ。チョコレート特有の甘さが口内に広がる。
「おいしい」
「ほんとに?」
やったー!とやっと笑った名前は本当に嬉しそうだ。
にこにこしながら、俺が残りのブラウニーを食べるのを見ている。
「初めて作ったんだ。私も味見してないからツナが実験台みたいな感じなんだけどね」
アハハと笑う名前に俺は苦笑いだった。俺、実験台……なんだ。二度目の期待を裏切られたような気がする。
まあ、義理、だしな……。
「他のやつに渡したの?」
「え、何で? ツナだけだよ」
「そうなんだ……へー、ふーん」
「な、なに?ちょっとねぇ!」
「期待してもいい?」
「? 何を期待するのよ?」
「まだわかんない?」
「ダメツナのくせにっ……!」
確かに俺はまだダメツナだけど、名前よりはこのことわかっているつもりだ。俺は余りのブラウニーを名前の口に突っ込んだ。名前はうわ、え、とか言いながら口に含む。しばらくもぐもぐと口を動かして飲み込んだようだ。
「うん、おいしい」
「名前が作ったんだよ。意外に料理上手だね」
「意外は余計」
「だからさ、俺のお嫁さんにならない?」
「!?……、嫁って飛びすぎでしょ!?……まあ、うん、いいけど」
「!」
ストレートに言ってみるものだ。ちょっと飛びすぎたことを言ったけど、伝わるんだ……。意外にも少し顔が赤い。
「好きだ」
「!!!?……あ、う、ん」
「可愛い」
「〜っばか!」
部屋から飛び出していったしまったけど、明日も会うからいっかと思った。だって、去り際に彼女も答えてくれたから。
致死量の愛とチョコをどうぞ
20120220