ふらふらした足取りで街の中を歩いていた。朝焼けの眩しさが目に沁みて痛い。ゆっくりと早朝の空気を吸い込んで海岸まで歩く。朝といっても春の朝はまだ寒い。冷たい風が吹く。揺らめく木々がさわさわ鳴る。車通りも少なく、道路には私1人だった。その生まれ育った土地を歩く。帰ってきたのは何年ぶりだっけか?高校を卒業して間もなく、遠い地へ旅立った。まったくこことは違う景色、言葉、人、文化に触れてすごすのは刺激的ではあったが、そんな楽しいことばかりじゃなかった。いつだって暖かく迎えてくれた仲間はいたけど、私たちはもうこの陽のあたる暖かい場所には戻れない人間になってしまった。って、今さらかな。あの時にみんなで腹くくって決めたんだから。日はゆっくりと高くなっていき、上へ上へといってしまう。まだ、海岸は見えてこない。
何人かで休暇を利用して戻ってきたけど、海岸へ行こうとするやつなんて私くらいしかいないだろう。しかも、バスを乗り継いでやっとこれる場所なのに、免許を持っていながら歩きで来る奴なんて尚更いない。笑うしかないな。それでも歩きたかったんだから仕方ない。
歩くこと数十分、海岸は見えてきた。生まれ育った並盛の、海岸。夏はレジャースポットである。
砂浜に足を踏み入れる。さくさく小気味よい音がする。だんだん、裸足ならもっと楽しいかもしれないなんて思って靴を脱ぐ。しかし、スーツできたのは間違いだったなあ。海に似合わないったらありゃしない。日本とはいえ、何が起こるかはわからない。物騒な人間になったんもんだと苦笑する。それでも、ズボンの裾を捲り上げて海へそっとでる。春の海はまだ、冷たい。足で海水をぴしゃりと跳ね上げた。太陽に照らされてきらきらと反射した。私はイタリアの、遠いあの異国の独特の色合いをした海も好きだったが、もっとこの並盛の海が大好きだ。私がみんなに会った思い出の海が、好き。バシャバシャとけだるげに足ですくう。指先をするするとぬけ去ってしまうのが何だか悔しい。
本当は浸かってしまいたいが、夏じゃないし、入れる準備だってしてないので諦める。
ただぼんやりと引いたり満ちたりする海を眺めていた。

「何してんの」
「つなよ、し」
「ホテルにいないなあと思ったら、これだよ」

後ろから声がした。いつの間にかいた綱吉は肩をすくめながらくすくす笑って言う。綱吉も私に倣って、靴を脱いでズボンを捲り上げて海に足を出した。

「なんで、ここだってわかったのよ」
「なんでって……超直感?」

超直感じゃないってわかってるけど、それでもそう答えてくれる綱吉は優しい。しばらく一緒に海を眺めていた。その時間がすごくゆったりとしていて、でも充実していたのは確かだった。それから2人でホテルへと戻り始める。

「ねえ、あの時覚えてる?」
「ああ、初めて会った日?」
「そう。あの不良を倒すのってすごいなあと思ったら、山本たちで、さらに子供助けたのが綱吉!思わず声かけちゃったんだよね」
「でも、声かけたから今ここにいるんだよね」
「そっか、確かにー……」

あの日のことは今でも鮮明に覚えてる。周りが騒いでるなあと思ったら、よく見知った同じ中学の人たち。それまでは関わったことなんかなかったけど、あの時は暑さで頭がやられてたんだと思う。だっていつも私だったら声はかけなかったはずだ。それでも、あの時な声かけて良かったと思うんだ。そうじゃなきゃ、今こうして過ごすことはない。

「あのさ」
「どうしたの?」
「俺たちもうやめない?」

え、何をやめるの?訳わかんないよ綱吉。いつになく真剣な表情をした綱吉と目が合う。春になりそうでなりきらない風が吹く。

「俺と付き合ってください」
「え、え?私?」
「うん。友達とか部下とかじゃなくて彼女になってほしい」

真剣な表情から、優しく笑う表情に変わった綱吉。私なんかよりもずっときれいで可愛い女の子はいるのに、私でいいの?

「そこ行くまでに返信してほしいな」

優しく言う綱吉は向こうに見える交差点を指差した。答えはとっくに決まっている。


「あの交差点で終わりにしよう」




企画**アルテミスさまに提出