※現パロ

 太子さんのお屋敷にはそれは見事な桜の大木が植わっている。
 春には満開に咲いた桜が一際目立っている。
 わたしはお屋敷に住み込みで働いているお手伝いさん。
「名前ーっ!」
「太子さん! またあなたは会社を抜け出したんですか?!」
「つまんないんだもーん」
 いい歳して、何がつまんないんだもんだ。オッサンが語尾にだもんを付けたって気持ち悪いだけだ。仮にも会社の社長が仕事中に抜け出すなんて……。社会人としてあるまじき姿。
「あのですねー、仕事をするのは貴方の社長の仕事なんです。サボることが仕事じゃないんですよ?」
「名前が働きすぎなんだ」
「普通です。どうせ太子さんは妹子さんに連行されるのがオチなんですから大人しく会社に戻ってください」
「えー! やだなー!」
「子供じゃないんですから……」
 いい加減にして欲しい。わたしだって仕事がないわけじゃないんだ。むしろやることがあるんだ。だからこんなところで太子さんに構っている暇など、そうないのだ。
「そんなのわかってるさ」
「なら……」
「だけど、昼間じゃないと名前と話せないだろ?」
「な……なに言って、るんですか」
 風が吹く。ちょっと生ぬるい風が今のわたしたちみたい。風にさらされて桜の花びらが舞う。太子さんは真剣な顔つきだった。真っ直ぐに太子さんの顔が見れない。
「私はな、昼間に名前と一緒に桜が見たかったんだ!」
「そうですか」
「名前こっちにきんしゃい」
 庭にいた太子さんにわたしは引っ張られてしまい、靴下のまま外へ。太子さんはそれに気がついたのか、ふわりとわたしを持ち上げた。その細い腕のどこに力があるんだろう。しばらくしてからわたしは、太子さんにお姫様抱っこをされていることに気がついた。
「太子さん!」
「……ん?」
「お、お姫様抱っこって……」
「名前は私のお姫様だからなっ!」
「なっ!?」
 この人はこんな発言をして恥ずかしくないのか。それを聞いたわたしは顔が絶対赤いに違いない。しかし、離してくれる様子もなく桜の木に向かって歩いていく。太子さんは楽しそうに笑っている。余裕がないのはわたしだけみたいだ。
「きれいだろ?」
「あはは! そうですね!」
「まあ、名前もだけど」
「そういう冗談はよしてください」
「冗談じゃないぞ」
 春の精みたいだ、と太子さんはいった。
 早く、妹子さん来てくださいと思った。
 こんなんじゃ、わたしの心臓が保たない。

2011/04/17