※学ぱろ
席替えをして隣になった名字は長い髪がトレードマークで、窓側のこの席では風が吹くとさあと流れるようにはためく。僕はそれが密かに気に入っていた。だから、朝学校に来た時に驚いた。名字は自分の席で小野と話していて、声をかければ名字もそれに返した。
「おはよう鬼男」
「!……、髪……その、切ったのか?」
「うん! スッゴい軽くて、髪の毛洗うのも乾かすのもすごく楽だし、いいことずくめなんだよ!」
「そっか」
トレードマークだった長い髪はばっさりと切られ、顔のラインに合わせて切りそろえられていた。風が吹いても、全然なびかない。少し、気に入らない。でも切られた髪型もよく名字に似合っていて、似合ってないなんて言えない。前は、見た目は少し大人しめに見えたのに、今は名字の性格と見た目が合致している。
小野が僕に耳打ちしてきて言う。
“名字さんの長い髪、鬼男好きだっただろ?”
言われて確かにその通りだが、それがどうした。小野は僕を見てニヤニヤ笑う。
「名字さーん、鬼男が呼んでるよ」
「えーなにー?鬼男がなんだって?」
友達のところでいつの間にか喋っていた名字を小野はこちらへと呼び戻す。何を話せって言うんだ。
「髪、なんで切ったんだよ」
「え……、髪切ったら全部忘れられるかなって思った」
「別れたあいつのこと?」
つい最近まで名字は付き合っている奴がいた。そいつは最悪な男で、よく名字は泣いていた。そいつ関連だったことに僕は苛ついた。別に僕は名字のただのクラスメートだし、何か言える筋合いもない。ただ切った髪の毛がもったいないと思っているのは、勝手に気に入っていた僕で、名字はそうは思っていないだろう。
「わたし、馬鹿みたいだよね。本当にアイツは最悪で最低だったのに、アイツを理由に髪の毛を切った。でもね…わたし知ってたよ鬼男がわたしの長い髪を気に入ってたのを」
「!?……なんで」
「なんとなくかな?授業中とか視線をよく感じるし、なんかいつも優しいから」
「名字の長い髪は気に入ってたけど、ショートも似合うから、その……」
「ありがとう。わたしはもう大丈夫」
にっこり笑った顔がどうしようもなく愛おしく感じてしまう。ここで好きだと伝えても弱った隙を狙ったみたいだ。だけど、今しかチャンスがない。
「名字……」
「なに?」
「やっぱ何でもない……」
「あはは、変な鬼男」
駄目だ。あの笑顔に僕はどうも弱いらしい。
2011/08/21