リスカぐらいじゃ死ねないよ。勝手に人の部屋に入ってきた閻魔は言う。私の家と閻魔の家は隣同士で、私と閻魔の部屋は窓を挟んだすぐ隣。あまりにも近すぎて、ベランダから渡っていけるくらい近い。おかげさまでカーテンを開けていれば、お互いの生活は筒抜け。その隙を縫って彼は私の部屋に入ってきたというわけだ。
 リスカぐらいじゃ死ねないのは私だって分かってるよ。手首じゃだめ。動脈を切らなきゃ。あっという間に逝けたら本当は楽なんだけど…。
「かわいそうに」
「アンタに言われる筋合いないんだけど。アンタだって十分にかわいそうだよ女たらし」
「少なくとも、男に捨てられたぐらいで死のうとする##NAME2##よらはマシでしょ。それに俺は女たらしなんじゃなくて、向こうが言い寄ってくるから、相手してあげてんの」
「マジ最悪。ていうかなんで私が捨てられたの知ってんだし」
「え〜、ゆうちゃんから聞いた」
「また違う女の子の名前…」
「##NAME2##も俺のになる?」
「大丈夫なんないから」
「俺なら##NAME2##のこと捨てないよ?」
「じゃあ私から閻魔捨てるわ」
「##NAME2##ひどーい」
「キモイんだけど……」
 私は閻魔のああいう所が嫌い。そうやっていつも適当。もう早く出てってよ。出ていかないなら、アンタの目の前で逝くよ。
 もう一度私は手にしているカッターを握りなおした。
「はい、そこまで」
「……なんで邪魔するの」
「何ででしょう?」
「そういうとこ嫌い」
「俺も##NAME2##のそういうとこ嫌いなんだけど」
「私がどうしようが勝手でしょ」
「相手のこと考えたら?##NAME2##が死んだらソイツは##NAME2##に一生悩まされるよ」
「知ってる」
「だから止めようか」
「ヤダ」
 カッターは閻魔の手に回収されていた。だから、私がヤダと言っても何もできないわけで。あー……紐ないかなあ。そしたら、首吊りできると思うんだ。だけど、首吊りって死んだ後が汚いからやだなあ。……そんなこと言ったらいつまで経っても死ねないか。
「またろくでもないこと考えてるでしょ」
「してないよ(してるけど)」
「やっぱり俺のになるべきだよ」
「だからなんないってば」
「絶対幸せになれるし、##NAME2##なんか捨てないね」
「アンタ女たらしだからダメ」
「##NAME2##が俺のになったら遊びなんか止める」
「信憑性ないよね」
「そーかな」
「ない。だからアンタの女にはならないし、私には近づかないで」
 閻魔に何を言っても意味がないことはいつものことで、私の言うことなんて八割は無視。昔からそうだった。私に何かあると決まって閻魔はタイミング良く来る。今日だってそうだ。
「俺のこと嫌い?」
「はあ?何ソレ面白くないんだけど」
「どっち?」
「普通」
「ダメ2択のどっちか。好きか嫌いのどっちか」
「…………、強いて言うなら嫌い」
「本当に?」
「そうだけど」
「本当に、本当に?」
 ずいと閻魔の顔が近づく。はっきり言って、顔だけはいい閻魔だから目に毒である。そんなに顔近づけなくてもいいでしょ。
「目、逸らさないで言ってみ」
「嫌い」
 にやりと閻魔は笑って言う。嘘だね。私はそんなつもりない。
 だけど閻魔は嘘だと言うのだ。
 いつの間にか私はどさりと、閻魔に押し倒されている。
「なんのつもり」
「俺が##NAME2##のこと好きっていうこと」
「はっ、」
 鼻で笑うか笑い終わるまでに、雑なキスがやってくる。ん、と思わず声を漏らせば、閻魔の伏し目がちな瞳と交差する。あ、満足げな表情だ。ようやく離れた私の唇と閻魔の唇。
「やっぱり閻魔って最悪」
「##NAME2##と相性いいと思うんだけどなー」
「他の女の子とやってろ」
「##NAME2##がいいんだって」
「私は嫌なの」
「さっきいい顔してたけどね」
 相変わらず、私は閻魔に押し倒されたままの大勢で、閻魔は満足げである。
「もう死ぬ気失せたから大丈夫。だから帰って」
「しょうがないなー」
「そうして」
「でもその前に」
 チュッとリップ音をならして、首筋にしるしを残す。親に見られたらどうするんだこの野郎。最悪だ、女たらしがなんで一番身近な幼なじみまでたらしこむんだ。別に女の子がいるんじゃないの。
「ばいばい##NAME2##」
 ひらりと飛び去って自分の部屋に戻っていく閻魔。とりあえず、明日学校に行くまでにこの首筋をなんとかしなくちゃ。

2011/12/02