僕は自分で言うのもなんだが、苦学生である。特待生制度を利用して学校に通い、奨学金をもらい、一人暮らしなので生活のためにバイトに明け暮れている。サークルは一応入ったものの、ほとんど参加していない。本当に友達といえる奴はバイト仲間とか、昔馴染みの奴ばっかりで遊びに行くのも数えるほど。
今日もバイト。今日のバイトはホテルのスタッフだった。このホテルではパーティーが行われるそうで今日はそっちのスタッフとして駆り出されていた。正直、営業スマイルが必要な仕事は苦手だ。
顔が疲れる。
同じバイト仲間の河合は笑わないが、何故かそれで奴は許されるのだ。何だかそれはそれでズルい気がするが、奴は奴なので僕には関係ないことである。
それを気にしてないと言ったら嘘にはなるのだが。
「小野さん早くしないと知りませんよ」
不適な笑みを浮かべた河合が僕の横を過ぎ去る。僕は急いで着替えて仕事場に向かった。今日の持ち場はなんとフロア。苦手な笑みをしなければならないということだ。フロアでウェイターとして仕事をする。
「お飲み物はいかがですか?」
お世辞にも良い笑みとはいえない笑みを浮かべながら会場を回る。
「あれ? 妹子くんっ!?」
突然声をかけてきたのは大学で同じゼミの名前だった。名前はいつものラフな恰好ではなくパーティードレスに身を包んでいた。いつもとは違う雰囲気にくらくらする。
彼女は近寄ってきて、これ下さい、と可愛らしく言う。あ、今日はいつもとは違う香水つけてるなあ。近寄ってきた際に少し香ったのだ。
「なんで妹子くんスタッフなんかしてるの?」
「バイトだよ」
「そっかあ、大変だね。あ、このパーティーうちの会社が主催してるんだ。せっかくなら妹子くん誘えばよかったなあ」
名前は飲み終えたグラスを僕が持っていたトレイに戻す。
誘えばよかったなあ、と言われても多分僕は行かなかっただろう。こっちは常に生活がかかってるんだ。そんなやすやすと遊ぶはずがないし、こんな豪勢なパーティーに着ていくような高価なスーツだって持っていない。
「名前、楽しんでって」
「うん……。あのさ、今度の時は私、妹子くんと参加したいな。だからこのこと覚えておいてね」
「え、名前、……!?」
名前は僕の頬にキスしたかと思ったら、エヘヘと笑いながらあっという間にパーティーの集団の輪の中に入っていった。
もちろん、この後の僕がまったくの使い物にならなかったのは言うまでもない。
2012/02/28