「お前ってホントに寒がりだよな」
 鬼男は何気なく言う。私は首に巻いた長いマフラーに顔をうずめる。隣を歩く彼は、いつもの服を着ているだけで防寒のぼの字もない。だいたい、冬の天国を歩いているというのに、気温を感じないほうがおかしいんじゃないだろうか。天国に四季はあるし、気温の変化も現世ほどはっきりはしていないが少しはある。その、天国では少し肌寒い気温に私は耐えられない。防寒対策はばっちりである。
「くしゅん、」
「ほらー、防寒しないからだよ。絶対風邪引くよ?」
「いや、これくらい平気だって」
 平気だと言いながらまたくしゃみをしている。
 本当にこのままここを歩いていたら風邪を引いてしまう。仮に彼が風邪を引いた場合、私は大王さまに説明しなければならないのだ。まったく、何て説明していいのやら。それに彼が休んだら誰がその穴埋めするのだ。悔しいけど、彼ほどできる鬼はいない。そう思って私は寒いのを我慢しながら、首に巻いたマフラーを外す。
「ちょっと止まって」
「? うん」
 鬼男の首にぐるぐるとマフラーを巻く。少し苦しそうにしているが構わず巻く。
「よし、かんせーい」
「名前、寒いんじゃなかったけ」
 そう聞かれたら寒いけど、鬼男に風邪を引かれてしまうほうが困るのだ。
 そりゃあ鬼男は私と違って健康だし、風邪なんか引かないと思ってるだろうけど…。
 横を歩きながら鬼男をちら見してみるけど、あったかいマフラーに顔をうずめている。なんだ、やっぱり寒いんじゃない。
「早くあったかくなるといいね」
「ん? ……そうだな。そしたら名前ともう少し長く散歩ができるしな」
「何言ってんの、あったかくなったら花粉症の季節よ。私花粉症だから嫌だな」
「鬼のくせに人間みたいだよな名前って」
「うるさい」
 こんな他愛もない会話だけど嬉しくて仕方ない。
 春はもうすぐそこだ。

2012/03/06