夏が近づくと彼女はどことなく嬉しそうだ。毎日毎日飽きることなく移りゆく空を眺めている。雨が降ったり、降らなかったりいろいろなのに彼女はそれを楽しんでいるというのだ。
 だが、あいにく今日は梅雨の真っ最中だ。
 朝からしとしとと強くもない雨が街を濡らしている。
 彼女はいつもの道を傘をくるくるさせて来るのだろう。きっと訳の分からない鼻歌を歌いながら。
 ガラガラと玄関で音がした。多分、彼女だ。
「こんにちはー」
 へらりと効果音がつきそうな笑顔のおまけつきの彼女は優しい桜色の傘を折り畳んで持っていた。まだ、雨は止んでないらしい。
「早くあがってください」
「あ、うん」
 傘を適当に壁に立てかけて、彼女は草履を脱いで框に上がる。その動作がちょこちょこしていて小動物のようだと思った。不思議とイライラはしない。これが師であったなら蹴り飛ばしているところである。
「あのね曽良くん、今日は曽良くんが好きなお団子持ってきたんだよ」
 そういいながら、机にお団子を広げた。白、ピンク、緑といつもの三色ある。僕はその一本に手を伸ばして口にほおばった。彼女はそれをにこにこと眺めている。
「曽良くんってお団子食べてる時はすっごく幸せそう」
「そう見えますか?」
「うん、お団子に嫉妬しちゃうくらいにね」
 何を言い出してるんですかと言いたかったが、あいにくそれはお団子を飲み込む動作と一緒に追いやってしまった。相変わらずにこにこと話し続ける彼女の言葉なんか、さっきの一言のせいでこれっぽっちも頭に入ってきやしない。嫉妬なんてしの字も知らなさそうに毎日ふわふわしているのに、そんな感情を抱いている、そう思って少し安堵する自分がいた。それに、少しくすぐったいような気もする。自分はいつも彼女のことが気になって仕方ない。そして、彼女も多少は僕のことを気になっているという事実に。
「ちょっと、曽良くん私の話し聞いてないでしょ?」
「はい」
 もー。と少し怒ってはいるがそこまでは気にしてないらしく、また話し始める。ふと、縁側に目を向けると雨が止んでいた。
 雨上がりが彼女に似ているとか、そんなことは絶対本人には言わないけど、自分だけ知っていればいいと思った。
「あ、曽良くん、虹!」
 外にかかった虹に気づいてふふふと笑っている彼女といつも通りの僕がいま、同じことを共有して同じことを思っていればいいなと、そう思った。
 さて、彼女はどうおもっているのだろうか。聞いてみようじゃないか。

企画「どうおもう」様に提出

2012/06/25