※年の差設定

「どうお思いになってるかわかりますか?」
「そうだねお嬢ちゃんそりゃあ……」
 私は茶屋で、ある相談をしていました。
 曽良さんと私の年は十も離れているのですが、あろうことか私たちは恋仲なのです。
 いや、このご時世別に不思議なことではありませんが、きっと曽良さんから見たら私は子供のように見えると思うのです。だって、やっと、叶った恋なのですから。恋をしたのだって私の方が先で、私が色々と話しかけなければ曽良さんなんかの目に私が止まるはずないのです。
 ああ、どうしたらこの不安は解消されるのでしょうか。
 如何せん曽良さんに相談するわけにもいかず、もちろん、曽良さんのお師匠さまである芭蕉さんにだって相談できないのでとても困っている次第なのです。お恥ずかしいばかりですがそういった経緯から私はさきからこの茶屋にいる店主さんに相談をしているわけです。
 店主さんもお優しい方であれこれ考えてくださるのですが、いい答えは見つかりません。
 あんまり長くお話していても店主さんも忙しいですし、私も戻らないと曽良さんに叱られてしまいます。
 結局、いい案は得られずに私は帰りました。
「戻りました……って、え」
 芭蕉さんと曽良さんのいる芭蕉庵へ戻ると、曽良さんが玄関で待っていました。曽良さんはあまり表情を変える方ではありませんが心なしか不機嫌そうでした。驚きつつ 草履を脱いで、框を上がると彼は何もいわずに戻ってしまいました。
どうしたのでしょうか。私には全く気づけないのです。不安になりながらも居間へと 行くと曽良さんは一言、ここに座って下さいと私を促しました。
 指定されたのは曽良さんの隣で、曽良さんはそれはそれは怖い顔で私に問いただすのです。
「どこをほっつき歩いてたんですか」
「ちょっと茶屋へ「そして、そこの店主とへらへら話をしていたと」
「み、見たんですか!?」
「たまたまです。浮気するならもう少し場所と時間を考えるべきだと思いますが、ええ、僕のことが嫌だったらそう言えばいいじゃないですか。別に咎めませんよ。そうされたって仕方ないことをしていると思いますよ」
 今日の曽良さんは饒舌でした。いつにもまして凄みがあります。それでも、私にはカチンときてしまった所があったのです。
「なんてこと仰りますの!? いつ私が曽良さんを嫌いになったって言うのですか! 浮気なんて……! そんなこと冗談でもしません! 私、身近な誰にも相談できなくて、ああして他人さまにお話を聞いて頂いてただけです! それを浮気だなんて……!」
 何てことを曽良に仰っているんでしょう。でも曽良さんは私のことを呆然と見ているだけで何も言ってきません。私はまた言葉を発そうとしましたが、それは曽良さんの形の良い唇に阻まれたのでした。
「んっ……」
 触れるだけの接吻だったのに、何だか息も出来ないような時間触れていたような気がしました。ようやく離れるというその瞬間にペロリと私の唇は曽良さんの舌に食べられてしまう。何だかぞくぞくして、自分ではないような声が漏れて、曽良さんを見上げている自分がいました。今なら不安に思っていることを聞けるような気がしました。
「私のこと子供だとお思いですか」
「馬鹿ですかあなたは……。だったらこんなことしないです」
 見上げる私を曽良さんはゆっくり押し倒してまた言うのです。
「あなたは僕を惑わしてばかりだ」

2012/09/21