※社会人パロ

会社の同僚の河合さんはわたしが「河合さん」と声をかけると眉根を寄せる。それからなんですかと聞いてくる。それはもう一連の動作のように滑らかで注意しなければわからないようなスピード。どうしてかはわからないけども、きっとわたしは曽良さんに嫌われているんだ。じゃなきゃ彼に嫌な顔をされる理由がないんだ。
今日も「河合さん」と声をかけた。するとやはりいつもの一連の動きをしてから何事もなかったような話し方。

「これ明日の会議で使う資料です。部長から目を通しておくようにとのことです」
「そうですか」

素っ気ない返事。明らかわたしよりも彼のほうがずっと愛想がない。なのにどうしてわたしが彼の名前を呼ぶだけで、顔をしかめられなきゃならないのだろうか。
やっぱり、いつも通りの口調に一連の動き。気づけばわたしは顔をしかめていた。そのことに河合さんが見逃すはずもなくて質問を投げかけてきた。

「何顔しかめてるんですか」
「だって河合さんが悪いんじゃないですかっ。大体、いつもわたしが河合さんを呼ぶだけで眉間に皺よるし、反応は他の社員さんたちより薄いしそれに、」
「それに、どうしたんですか」
「その物言いが嫌いです」

わたしが河合さんに向かって初めてはっきり嫌いと言うと、珍しく河合さんがぴくりと反応した。

「わたし、河合さんが嫌いです」
「待ってください」

明らかな拒絶を示して、その場から離れようとすると河合さんに手首を掴まれて、それは叶わなかった。
珍しく、焦った様子の河合さんにわたしはぎょっとした。
何ですかその表情。いつものポーカーフェイスはどこいってしまったんですか。

「何ですか、離してください。わたし暇じゃないんです」
「僕があなたに対して眉間に皺を寄せるのはあなたが僕を河合さんと呼ぶからです。反応が薄いのは誰にでも同じですよ、違うように見えるならあなたの被害妄想です」
「呼び方なんて個人の理由じゃないですか
「あなたは僕のことを名前で呼びなさい」

………呼びなさいだなんて命令形。

「河……そ、曽良さん横暴です」
「結構です」
「(…………悔しい。なんか負けた気がする)」
「まあ、あなたは僕のものですから」

そう言われて、頬にキスひとつ。わたしの意見は無視なわけ?
ほんと、横暴な人。それでもさっき嫌いと言った曽良さんを拒むことはできないように感じた。

20101029