ちちんぷいぷいの魔法をかけて、可愛い女の子になれたら良かったのに、世界でちっぽけな存在の私は簡単には可愛い女の子になれない。教室に入って一番に見つけた彼は、クラスメイトの男の子と話をしていて、私が登校してきたことに気が付かない。クラスメイトとおはようを交わして、席につくとようやく気がつく。
「おはよう」
「……おはよ」
テンションが低いのは朝が弱いせいにしておく。そうしたら、彼は気を悪くしないだろうし、変に気を遣う必要もない。ただ私が眠いだけって思ってくれる。
カバンから教科書をいくつか取り出し、机のなかに仕舞っていく。昨日の宿題の多さに辟易しながら終わらせたそれらは、登校する時の重みになった。でも、全部きっちりと終わらせただけに気分はすっきりとしている。今日の私なら、当てられても答えられそうだ。
「やべっ」
隣で思い出したように呟く彼と私の視線が合う。1限の授業の宿題を忘れたらしい。ワークを貸して欲しい、なんて珍しい彼のお願いに私はすんなりとワークを手渡す。
「助かる!今度忘れたら俺が見せてやるよ」
「そん時は遠慮なく借りるね」
「じゃ、約束な」
急いで書き写し始めた彼は黙々と作業を始める。いつも遅くまで練習をしていることは知っていたけれど、彼は当たり前のように宿題は提出してるし、成績も維持していた。一体、どうやったら両立できるのか。すごいなあと関心するばかりだ。
「菅原くんはすごいね」
「いや俺今、課題忘れてきたからすごくないべ」
「私ならもっと忘れると思うし、もっと直前まで気が付かないよ」
「あー、チャイム鳴るまで気が付かなそう」
「ほらー」
何となく声をかけただけなのに、思わず繋がる会話にぽんぽんと弾みがでて軽口を叩く菅原くん。そうだった、彼は時々意地悪なとこがある。にっ、と私に向かって笑う姿は、悪戯っ子がいたずらに成功したみたいにはにかんでいた。
早くやりなよ、なんてつっけんどんに返したけど、彼の笑顔に弱いなんて言ってあげない。まだ、彼に気持ちを伝えるとは決めてないのだ。
SHRと授業の始まる短い間に彼からワークが返却された。
「何とか間に合ったー。お礼したいんだけど、何かある?」
「ワークくらい、いいって。私も借りることあるだろうしおあいこ様」
そっか、そうだよなあ。なんてぶつぶつ言い出した菅原くんにどうしたのか聞けば、今度のお楽しみだと言われてしまった。
***
別の日、とうとう私は宿題のやり忘れに気がついた。机の中身から引っ張り出されたワークを恨めしげに見つめて、答えを書き込んでいく。昨日の夜、早く寝てしまっめのが原因だった。昨日は眠くて眠くて仕方なかったのだ。
「なんだよ、忘れたなら言えよなあ」
「さっきまで菅原くんいなかったんだもん」
本当のことだ。ついさっき戻ってきた菅原くんは、さっと私の目の前に出来上がったワークを差し出す。渡されたら、活用するしかないじゃないか。
5分程度で写したワークを閉じ、彼へワークを返す。
「ありがとう」
「気にすんなって。それよりも、俺から1ついい?」
なんだろう、と大して気にもしなかったので頷く。それがいけなかった。
「今度、俺と帰ってくれる?」
「え? いいけど、部活はどうするの」
「今度テストだから、その間にって考えてた。どう?」
私の弱い、彼の笑顔に押されて頷く。
菅原くんに私の気持ちを伝えたらどうなってしまうのだろう。今だけはこの幸せな約束のまま、帰る日を考えて彼と約束をした。
2015/09/02