君が私のことを苦手だというのを知っている。私は君に口うるさく構ってくる隣の席にいるクラスメイトだ。
私はそのことを理解したうえで、わざわざ声をかけている。何も全く理由なしで声をかけているわけでない。そこまでお節介な人のつもりは一ミリもなかった。
「ねえ月島くん、この間のケーキ屋さんは行ってみた?」
「……まだだけど」
「やっぱりね。なんとこの私、行ってきたので持ってきちゃいました!食べるでしょ?」
お昼休み、山口くんと会話してるところへ私は乗り込む。もちろん、山口くんがいることも見込んでちゃんと個数買い揃えてある。
いつものように、眉間に皺をよせてあからさまに迷惑そうな顔をする月島くん。それから、何があるの?と聞いてくるあたりはちゃっかりしてると思う。
私は箱の中を開けながら、ショートケーキ、チョコレートケーキ、フルーツタルトを取り出す。ペーパーナプキンの上にケーキをそれぞれ載せてから、ケーキ屋さんのお姉さんが丁寧に付け足してくれたフォークを机の上に出した。
山口くんにも、好きなのどうぞと伝えるが、ツッキーが選んだ後でいいよと言う。これもよくあることなので、月島くんにどれにするのか促せば、無言でショートケーキを選ぶ。
彼からきちんと聞いたことはないが、ここ最近ケーキを渡すようになって気がついたのはどうやらショートケーキが好きということ。
ケーキを食べる時の彼は見たことないくらい嬉しそうな顔でほおばるのだ。
多分、本人にそんなつもりはないのだろうが、纏う空気が変わるのだからどうしても分かってしまう。それを言ってしまえば月島くんはきっと、私のことをもっと苦手になってしまうのだということは容易に想像ができた。
私は残ったフルーツタルトをほおばりながら、今度はどこのケーキ屋さんにしようか頭の中にいくつかの店舗を思い浮かべる。
どんなお店のケーキを持ってきたら月島くんは喜ぶのだろうか。もっと色んな表情、びっくりとした顔を見てみたい。
普段からこの済ました表情を崩してみたいと思うのだ。
横目でこっそりと見ていても、クールなその横顔はなかなか崩れない。授業中に見ても、なかなか変わる表情なんて見れなかった。
クラスの女の子は、そのクールな眼差しとか塩対応なところが良いらしいけど、私には到底理解できないものだ。あんな薄っぺらなものにどんな魅力が詰まっているのか私にはわからなかった。
バレーをしている時の月島くんの姿はよく知らないけど、山口くんがこっそりと教えてくれたことは、楽しそうだということ。あの、月島くんが楽しそうにバレーをするらしい。なんだか想像できなくて、その時はくすりと笑みがこぼれた。
最後の一口を飲み込んだ。甘酸っぱい果物とクリームの甘い余韻が終わってしまう。
「月島くんはお気に入りのケーキ屋さんとかあるの?」
「それ聞いてどうすんの」
「んー、食べてみようかな。きっと月島くんが気に入ってるならすごく美味しいお店なんだろうね」
「……教えない。まあ、たぶん当てられもしないだろうけど」
「え、ちょっと!」
ごちそうさま、そう言い残して月島くんは席を離れてしまった。私が呼び止める声なんて気にも止めないで、さっさと教室を出ていく。
山口くんも片付けたお弁当箱を持って、ツッキー!と言いながら教室を出ていった。
唖然とする私をよそに、近くにきた友人が言う。
「月島ってなんか近寄り難いよね」
「そう?」
「だって毎日声掛けるクラスメイトがいるのに、いつまで経ってもあんな態度でしょ?少しくらい報われるといいのにって思っちゃう」
「んー、月島くんは私に謎掛けをしたみたいに思ったけどなあ」
「あれで??あんた、いつか嫌われるんじゃないの?」
「どうだろう……嫌われてはいないと思うけど、苦手だとは思われてるかも」
嫌いと苦手は違うんだよ?と友人に言えば、月島に嫌われた時は慰めてあげると返された。
とりあえず、今度からはショートケーキが美味しいところを中心に探しあてようと思う。
***
口に残った生クリームの甘さは、彼女のにこやかな笑顔を思い起こさせた。
こっちがどんな気持ちでいるかも知らないで、毎回声を掛けてくるなんてたまったもんじゃない。
彼女は勝手に僕が彼女のことを苦手だと勘違いしているようだ。
だが、言いたくもないが苦手だということはなく、むしろ――
「ほんと、ありえない」
後ろから山口が僕を呼んでいる。それに気がつかない振りをして、廊下を進む。
毎日彼女が話しかけてくるのも、ケーキ屋の話題で顔を煌めかせるのも全部嬉しいのだと言ったら彼女はどうするのだろう。
出し抜きたい気もした。でも、あともう少しくらいの間彼女のことが苦手な僕を演じてあげようと思うのだ。
そうしたら、もっと知らない彼女を知れる、そんな気がした。
2015/05/23