彼女の凛とした佇まいを目にしたのは、全校集会で整列した時だった。体育館内がざわめく中、彼女は誰かと話しているわけでも、寝むそうにしているわけでもなく、ただ真っ直ぐ立っていた。
前を見据える瞳が綺麗とか、真っ直ぐに伸びた天使の輪が煌めく髪の毛が綺麗だと思った。ありきたりな言葉で表すことしかできなかったが、ぴんと伸ばした背筋とつんと澄ました表情が印象的で、思わず声をかけそうになったことを覚えている。
そんな光景を数度目にすれば、嫌でも彼女の名前が知りたくなった。
クラスはすぐに分かった。自分のクラスの隣だ。隣のクラスのバレー部の奴にそれとなく聞けば、名前を知ることができた。
名前を知ることができた次は、どうやったら彼女を会話をすることができるのか。実は数日程考えて、きっかけを作ってもらったのは、やっぱり隣のクラスの奴だった。持つべきは人脈か。
しばらくの間、適当な用をつけては隣のクラスへ行き、バレー部の奴らと会話をすることで隣のクラスを出入りする。そうすることで、自然と話せる機会をうかがった。
転機は意外にも彼女の方からだった。俺にしてみれば願ってもいないチャンスだ。機会を逃したくはなかったけど、どうすれば自然なのか分からなかった。
「えっと、名前なんていうの? あ、向こうにいる友達が知りたいっていうから……。ほら、よくうちのクラス来てるし、バレー部だったりする?」
おどけた顔でにこやかに問う彼女に俺は驚くばかりだ。まさか、彼女からきっかけが出てくるなんて思いもしないし、こんな簡単にも近づいた距離とか、本当にこんなの信じられるだろうか。
「そうそう、バレー部。夜久っていうんだ」
「夜久君ね。珍しい名字、私初めて聞いた。ありがとう」
「で、君の名前は?」
「そうだよね、人に聞いておいて私が名乗らないなんてね」
ごめんね、と言いながら答えた彼女の名前を心の中でもう一度唱える。
至近距離での会話で、心臓がうるさかったが平静を装って、普段通りの顔をしていられただろう。すぐに教室の隅にいる女子生徒の輪に戻っていく彼女を視線で追う。
友人達のとこへ向かう彼女の横顔は初めて見た凛とした表情と打って変わって、柔らかい微笑みを浮かべていた。
「だめだ、俺」
隣にいた奴が、はあ?と言ったが、気にしない。
最初から彼女にはめられていたんじゃないかって、気が気でないのだ。
2016/02/26