澤村君の良いところって聞かれたら、大体の人が優しいよねって答えると思う。もちろん、私だって、彼の良いところの一つとして挙げるだろう。
 私が聞きたい澤村君の良いところは、そんな簡単なものではなく、もっと親しい人しか知らないちょっとしたことだったりするのだけれど、それは私だけが知っていることでいい気がするのだ。だって、他の人が澤村君の良いことを知ってくれたら嬉しいけど、その分ライバルが増えるのだとしたら知らないままでもいい。
 といっても、そもそも澤村君はとてもいい人なので、澤村君の良いところをプレゼンテーションしたところで今更なのは百も承知で、事実だった。
「澤村君ってさ、実は罪な男子高校生だよねー」
「俺なんかしたか?」
「いや、全然。むしろ、澤村君の後ろには後光があるようにしか見えないよ」
 授業と授業の短い休み時間に後ろを振り向けば、澤村君。私は彼の前の席で、次の授業の課題だったワークとにらめっこ。
 澤村君は優しいので、こうしてさぼる気満々の私にもワークを見せてくれる。私はこのワークを写す作業が終わったら保健室へ逃げ込むきなのだが。
 シャーペンを握って写す作業を進めるものの、澤村君が見ていると思うと何だか上手にシャーペンを握れないし、変な汗かきそうだし、書き写す文字がへにゃへにゃになりそうだ。
 澤村君は部活も忙しいし、バレー部のキャプテンでもあるし、それでも課題をきちんとこなしている。当たり前のことだけれど、この当たり前って案外難しいなって、十数年生きてみて最近思うのだ。澤村君は一体どんな徳を前世で積んできたのだろう。私には到底手の届かない徳を積んでいるような気がする。
「あーもう、手しびれそう」
「やってこないのが悪いな」
「正論すぎるね」
「あと、このあとの授業ちゃんと出ろよ」
「えー……。絶対あの先生、私のこと嫌いだし、すぐ指すからいやだな」
「たまに出ればいいことあるかもしれないだろ」
 ワークから顔をあげて澤村君に聞いてみれば、内緒だと言われてしまう。
 どうして、と問う暇もなく澤村君からワークを終わらすように急かされてしまい私はまた書き写す作業に戻る。
 本当は、澤村君に後姿をずっと見られているのが恥ずかしいと伝たら、彼はどんな顔をするのだろう。私が一日この席にいるのが耐えれらないのは、私と菅原君だけが知っているのだけど、澤村君に知られるのはもう少しあとでいいなんて、わがままなのかな。

2016/02/26