あら、可愛いわねなんてお母さんが私の今日の格好を見て言う。彼に合わせたの?と朝食をたべながら言うもんだから、そうそうと言って合わせる。
朝起きてさんざん悩んで選んだワンピースはこの間買ったばかりのものだ。確かに彼に可愛いって思ってもらえたらいいなとは少しだけ期待してる。彼が言ってくれるかどうかはわからないけど。
「じゃあ、もう行くね」
「いってらっしゃい」
 メイクも髪の毛もお洋服も、気合い入りすぎって思われないように、でも可愛くみえる精一杯の背伸びをして家を出た。自然とわくわくしてきて、彼に会えるのならそれだけでいいと思えてきた。バレーに多くの時間を費やしている彼は彼女との時間なんてそんなに多くはない。それでも少しの休みの合間を利用して会ってくれるのだから、何も言ってはくれないけど大切にしてくれているのだと感じられる。
 足早になって待ち合わせ場所に着けば見慣れた姿。顔をきょろきょろさせているあたり、そわそわしているのがわかる。
「飛雄くんお待たせ!」
「遅い」
「ぴったりだよ、ほら」
 スマホの画面を見せれば約束の午前十時三十分。画面を確認した彼は、そうですねなんてがっかりした様子。それから私の格好をまじまじと眺めて、あーとかうーとか唸りだした。よくわからず見つめればぷい、と顔をそらされてしまい、差し出された手が、もう行きますよとデートの開始を告げていた。
 今日の予定は前々から、お買い物と行ければ海だった。少し電車を乗り継がないと海には行けないので、お買い物の時間は短めかなと2人で考えていた。
元々、飛雄くんは買い物に時間をかけることはないので悩むとしたら自分だ。今日はさくっと決められますようにと心の中で誓った。
人の行き交う雑踏の中は、手を繋いで距離が近くても声が聞き取りにくい。ようく飛雄くんの声が聞き取れるように神経を集中して見せるけど、今度は周りへの配慮が無くなってあやうく人とぶつかりそうになった。
「わっ、」
「大丈夫か」
「ごめんね」
 軽く笑いながら言えば、しっかり隣にいてくださいなんて言われてしまう。
少し街中を歩いてお目当てのお店に入る。お気に入りの洋服屋さんで、今日着ているワンピースもこのお店で買ったものだ。何度か2人で来たことはあるけど、飛雄くんは大体お店の隅っこにある椅子に腰掛けて私が買うものを決めるのを待ってる。どれにするか悩んでいるときは、彼のもとまで言ってどっちがいいか聞いて決めているのだ。
 ハンガーにかかったお洋服を眺めながら、あれがいいこれがいいなんて考える。少し濃い色のデニムのロングスカート、黄色のギンガムチェックのトップス、マリンカラーが素敵なショートパンツ、夏に向けて便利なカンカン帽。どれもこれも可愛くて目移りしてしまう。
「今日はどれにするんだ?」
「珍しい」
「おら、何にすんだよ」
「じゃー、これ!」
 ぱっと目に入った帽子にした。これなら、夏の日差しだってへっちゃらだ。にこにこしながらレジに向かうと、飛雄くんも着いてきてレジのお姉さんに値札外してくださいと頼んでいた。それから、飛雄くんがお財布から必要な金額を無言で出すもんだからびっくりしていると、たまにはいいだろ、といつも通りのテンションで言われた。レジのお姉さんがデートですか?と聞いてきて、ゆるゆると頬があがった。お店を出るときに、デート楽しんでくださいとにこやかに笑うお姉さんにぺこりと頭を下げた。
「それ、ちょっと過ぎちまったけど、誕生日プレゼント」
「え、ありがとう!」
「今日のと合いそう、と思った」
 どうしよう、嬉しすぎる。自分で選んだ帽子だけどそれ以上に初めてのプレゼントが、今日頑張って選んだワンピースに似合いそうって褒めてくれたのが嬉しかった。
思い切り抱きつけば、恥ずかしそうにべりっとすぐはがされてしまう。もう、と見上げれば赤い顔をした飛雄くんがいた。
 買ってくれた帽子をかぶりながら駅の改札を抜けて、数駅乗り継いだ先に海はあった。まだ六月は寒いし、海には入れない。でも、梅雨の合間に晴れて出た太陽の光に反射してきらきらしていた。
 波打ち際まで2人で向かう。
 海水はまだ冷たかったが、えいと勢い良く手のひらですくって彼めがけてかければすごく怖い顔をしていた。
 それがおかしくて笑えば、反撃とばかりに飛雄くんからばしゃりと海水が飛んできた。
「飛雄くんのばーか」
「お前、絶対許さねぇ」
「きゃーこわいー」
 茶化せばまた海水が飛んできて、馬鹿みたいに笑った。
「飛雄くーん、好きだよー!」
 飛ばされる海水から逃げるように離れてから大声で叫ぶ。
 今日はかっこいいところだらけの飛雄くんだったけど、私の一言で真っ赤な顔をして立ち尽くしていた。
 夏になったらまた来ようね。
 この帽子もまたかぶってくるからさ。

2014/06/06