昇降口に行く手前のくぼみのある廊下で目撃してしまった。少し緊張した女の子の声と、片想いのあの人の声。あまり人目のつかない位置でうちの学校では結構有名な告白スポットになっている。昇降口に向かう廊下からは一瞬だけ見える場所で、いつもなら誰がいようと何とも思わないのにそこに彼がいるだけですごく緊張した。あの女の子はちやんと想いを伝えるんだ、彼は何て答えるのだろうか。願わくは断りますようになんて思う私は可愛くない女の子だ。人の幸せくらい、思えるようになりたい。
こんなの大事な話に耳をそば立てて聞くとは悪趣味と言われるかもしれないけど気になってしまった。
 息を潜めて、聞こえるか聞こえないかぎりぎりの下駄箱の位置。誰が通りかかっても、人を待ってるふりをするようにスマホを握り締める。何となく待ち受け画面を見ていれば、女の子の緊張した声が聞こえた。
「あの、ずっと前から黒尾くんのこと好きでした。……良かったら付き合ってください!」
 告白、した。きっと自分もあの女の子と大差ない。握り締めたスマホに力がこもる。どうせなら、私も当たって砕けろ精神で言えばいいのかな。ふいに、彼の声が聞こえてきた。
「告白は嬉しいけど……今はバレーで手いっぱいでそういうのは考えらんねえんだ。悪い」
 クロはそこそこモテる。でも彼女は作らない。彼がバレーに集中したいと決めて彼女を作らないと心に奥で決意して無意識に避けているからだ。ぐず、と女の子のすすり泣く声が聞こえた。時間とってもらってありがとう、そう女の子の声がして、どうやら告白タイムは終わったらしい。答え方まで聞いて私はどうするつもりだったのだろう。このまま何も言わずに友達のままうやむやにするのか、想いを伝えるのか明確な答えは出ない。今のままじゃ、彼の重荷になるだけだ。
「悪趣味だな」
「っ! びっくりした」
「んなとこにいるとかお前聞いてただろ」
「まさか。小声じゃ聞こえないよ。たまたま、友達待ってただけ」
 ひょっこり後ろに現れたクロ。友達待ってたなんて嘘。タイミングはたまたま合ったけど、あの告白をずっと聞いてたの。彼を見上げれば少しくたびれた顔をしていた。
「部活はこれから?」
「まあな」
「頑張って」
 今の距離ならこうして近くで応援することができる。気持ちを押しこめればきっと他の女の子より励ましてあげられる。
 ばいばいと手を振れば体育館に向かう背中越しに手を振り返してくれた。
 次の日の教室で、クロに手招きされた私は大人しく席まで向かう。
「何?」
「お前昨日のあれ、間に受けんなよ」
「……うん」
「ホントかあ?」
「いったぁ!何すんのよ」
「信じてないからだ」
 上の空の私にデコピンをくらわすクロ。
 意地の悪い笑みを浮かべてしかけてくる辺りが容赦ない。別に私に言わなくても気にしない癖にどうせ、バレー部のみんな用の対策でしょ。
「ばか、バカクロ」
「っお前なー」
 泣きそうになるのを堪えて暴言を吐く。呆れた顔をしたクロはどうせ私がバレー部の人に言うと思って間に受けんなよって言うんでしょ。ばか、言える訳ないじゃない。最後に言ったの去年の夏だよ。あの時から好きなんだよ。気づいてから言えなくなっちゃったのなんてわかんないよね。
 不意に伸びてきた手は私の頭にのせられる。
「そんな泣きそうな顔するな」
「してませーん」
「泣いたら汚くなっちまう」
「ソウデスカ」
 優しくされるのかと思いきや、全然優しくない。柔らかく撫でる手にはびっくりしたけど、そんなのことよりずっと大きな爆弾が投下される。
「もう少しだけ待ってろ」
「??」
「約束」
 待ってたらこの宙ぶらりんの私の気持ちは解消されると思っていいのかな。
 伸ばして縋った手は、彼が受け止めて握り締めてくると信じていいのだろうか。

2014/06/15