久々に会った彼はいつもと変わらないテンション、仕草、服装、好物と安心できた。LINEや電話でのやり取りばかりじゃわからない彼のことは、知れるだけで嬉しいものだ。
「ジロジロ見てるけどどうしたの?」
「やっぱり会うと嬉しいなあって」
あんまりじーっと見てるのが隣を歩く英にバレてしまった。率直な感想を告げればそう、と呟いて手をすくわれる。骨ばった彼の手は意外と大きい。包まれているのもほっとして口元がまっすぐに閉じていられないから、ついつい笑ってしまう。
彼は人混みとかがあまり好きじゃないから、のんびりできる美術館とか映画館だったりときっと他の人と付き合っていたらあまり行かなそうな場所まで連れていってくれる。たまに私が行きたいと言えば付き合ってくれて、でも疲れたとかは言わない。分かりにくいけど、優しいのだと思う。
駅から少しずつ離れて、住宅街へとまっすぐ伸びる道を歩いていく。途中、スーパーに入ってお昼ご飯とか、お夕飯の具材を買う。スーパーの袋に塩キャラメルの袋が入っている。彼の好きなお菓子だ。
「塩キャラメルって美味しいの?」
「食べたことないんだっけ」
「だっていつもダイエット中なんだもん」
「いつもって……自覚あったんだ」
「英が細いのがいけない」
買う度に気になっていたのに、今まで食べたことがない。彼の隣で家についたら今日こそ塩キャラメルを食べると決めた。その前にお昼作らなきゃだ。アパートの階段を上りながら忘れないように塩キャラメル、塩キャラメルと頭の中で唱えて彼の部屋に入る。キッチンに荷物を置いて、手を洗いに洗面所に入れば歯ブラシが2つ立てかけてあるのを見て随分荷物も増えたないと感じた。
ハンドソープのポンプを押しながら軽い浮遊感に、あれ、もう無いのかな?とポンプを揺らしてみる。ぴちゃぴちゃと残量がすくないのを示す音がした。英に言っとかなきゃだなあと、手のひらの泡を流しながらふと思う。
キッチンに戻ると英が冷蔵庫にさっき買ったものを詰めていて、遅いと言われる。
「ハンドソープ全然なかったよ」
「ん、今度買っておく」
「ホントに?英たまに忘れてるじゃない、覚えておいてよね」
「名前が覚えてくれればいい」
「もう……」
食材を詰め込み終わったのか、ぺりぺりと包装紙を剥がす音がして彼の手の中を覗きこむと、塩キャラメルが顔をだす。そのまま私の方へ向けてきて口を開けばぽんとつめられる。初めての塩キャラメルだ。
「意外と甘……? いや、しょっぱい? ん、美味しい」
もっとしょっぱいのかと思っていたけど、そんなに塩気が強くなくて美味しい。感動していれば、英も同じように口に放り込んでいた。時計を見遣ればお昼の時間で、冷蔵庫をもう一度確認して食材を取り出す。とりあえずお昼は簡単なものでいいかなと思い、残り物とかも確認をする。
「簡単なものでいい?」
首だけ縦振って同意する彼はいつの間にかソファまで移動していた。
私は彼に背を向けて準備をはじめる。
1人だけでのご飯は味気ないのを知ると、2人で食べられる時は温かいものを作りたくなる。誰かが食べてくれるということはありがたいことだ。
冷ご飯をフライパンに入れて少しずつほぐす。今日はご飯があっただけましだ。ない時の方がよっぽど多い。
「もうできますよー」
声をかけるとゆっくりと動き出して机まで持って行ってくれる。
お茶碗、お椀、お箸と大皿と並べて向かい合っていただきますを言う。
美味しい?とかは聞かないけど、不味ければ言ってくれる。というか、私から先に言ってしまう。彼が不味ければ、もちろん私の口にも合わないからだ。
「名前さ、もうここに住まない?」
「……唐突だね」
「結構前から考えてたけど、色々増えたものとか見て今かなって」
「英ってエスパーなの?」
「は?」
ついさっき、洗面所で並んだ歯ブラシを見ながら増えたなあって感じてた自分と一緒のこと考えててくすぐったかった。全部が全部同じ嗜好、思考にはならないけど、タイミングが一緒なのは波長がよく合う証拠だ。お皿に乗っかった野菜炒めを取り分けながら彼は言う。
「……名前は嬉しいとかはいうけど寂しいとかは言わないから、これならどっちも寂しくないだろ」
核心部分までお見通しらしく、こんなに幸せでいていいのかな、なんて贅沢なことを考えてしまう。
「で、どうなの?」
普段は見せないのやりとした表情で聞いてくる。聞かなくてもどうせ答えなんてわかってるのでしょ?
2014/07/10