目覚めはいつも彼の隣。優しく抱きかかえられていて、彼の腕の温もりと重さを感じて目を覚ます。起こさないようにそっと腕を布団の中に入れて起き上がる。横目に彼を見ればセットのされていない髪の毛は寝癖がついていてぴょこんとしていた。撫で付けるように寝癖に手を伸ばす。手を離せばまたぴょこんとアンテナみたいに立ってしまってすこしおかしかった。
 幸せの温もりがカーテンから覗く朝日と同じくらいの温度でまた幸せがこみあげるのだ。
 顔も洗ってすっきりとしたところでキッチンに向かう。少しお寝坊さんの彼を起こすのには時間がかかるから早めから朝食を作って匂いでおびき寄せる。
 今日はパンケーキにしよう。おやつじゃなくて食事になるようなものを作る。おやつに食べるふわふわのパンケーキは口の中でとろけてしまうように美味しいけれど、朝ご飯にはサラダとか厚切りベーコンのバターソテーとかそういうほうが合う。必要なものを取り出してコンコンとリズムよく刻む。それから生地に必要なものをボウルでようく混ぜて準備をする。熱したフライパンに生地を落とすとぽわあと丸く広がって想像していた大きさの円を描く。
 ぷつぷつと小さな気泡が膨らんでは弾けて消える。フライ返しでひっくり返せばきれいな焼き色がついていて口元が緩んだ。
「んー……名前おはよ……」
「おはよう。もう少しで出来上がるから顔洗ってきてね」
「はーい……」
 徹が起きてきて回転のしていない頭でゆっくりとした受け答えをしていた。これが顔を洗って戻ってくるといつもの徹になっているのだから感心してしまう。
 コーヒーサーバーに落ちきったコーヒーをカップに移してテーブルに置く。
 お皿に作ったものをひとつひとつ丁寧に載せるころには徹がリビングに戻ってきた。
「美味しそうだね」
 つまみ食いをしようとする手をはたいてテーブルに運んでもらうように促す。まったく、油断も隙もないんだから。一緒にいただきますを言って食べ始める。テレビは朝のニュースをチェックをしているので行儀が悪いかもしれないけどつけている。このタイミングではほとんど見ていないのでBGMみたいなものだ。
「ねえ徹」
「なに?」
「お誕生日おめでとう」
 食後のコーヒーを飲みながら伝えれば少しびっくりした表情の彼。もう何年もお祝いしてきたのにね。昨日12時ぴったりの時にも伝えたけど、何度伝えてもいい言葉なんじゃないだろうか。
 学生の時から何度言ってきただろう?
 彼が部活で悩んでいるとき、私の気持ちがきちんと伝わっているのかな、と昔は不安になったこともある。でも今年もこうやってお祝いできるのだから、また来年も隣で同じ空間で伝えたいなあと思う。
「来年も再来年も私が徹の隣でお祝いするからね」
「当たり前でしょ」
 柔らかい彼の声がすんなりと私の中に沁み込んだ。パンケーキの甘さとコーヒーの香りが混ざり合ってなんとも言えない香りが空間を占めている。朝のこの温もりさえ手放せないとっておきに変わっていく。そう言えば、初めてデートした時に食べたのは パンケーキだっ
たねと伝えれば嬉しそうに笑う彼。

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「ママー! きょうはパパのたんじょーびなの?」
「そうよ。一緒に寝ぼすけなパパを起こしにいこうね」
「うん!」
 ハッピーバースディのお歌歌わないと!と賑やかな息子の声。何年目か数えるのは止めたけれども、また今年もお祝いするね。
「パパー! おはよー!」
 ベッドにダイブする元気な息子。徹が起きるまで後十分。

2014/07/19-2014/07/20