渡り廊下を歩いていて、たまたま目に入ったプールサイドに腰掛けた女子生徒が一人、制服姿のままで裸足になった素足をプールに沈めていた。興味本位のまま彼女に近づいて声を掛ける。
「なあー、そこでなにしてんだ?」
「……涼んでんの」
「冷たい?」
「足は気持ちいいかな、木兎君もやってみれば?」
 俺の名前知ってんだ。柄にもなく気がついたが、何でもいいやと思い彼女に倣ってプールに足を突っ込む。
 隣にいる彼女は時々足をばたつかせて水飛沫をあげていた。暑さに耐えながらぼんやりと陽に反射する水滴を眺め、隣の彼女に視線を向ける。あまりの静かさに俺が耐えられなかった。
「教室の方が涼しいよなー」
「あー……うん、そう思うよ」
 じりじりと温まっているプールサイドは灼熱地獄だ。どう考えても、クーラーの効いている教室の方が涼しい。
 同意しているあたり、彼女にもその自覚はあるらしい。
「ここ静かだし誰も来ないから夏のお気に入りなの」
 木兎くんは苦手そうね。そう言って笑う彼女に頷いた。俺自身が騒がしいからか、基本的には賑やかな場所が好きだ。人がいた方が安心できる気がする。
「いつも一人?」
「木兎くん、私に友達がいないと思ってるわね」
「昼休みに一人だから」
「……そんなには友達多くないけど、一人になりたい時ってあるでしょ? そういうのない?」
 一人になりたい時か。難しいことを考えるのは得意ではない。でも、思い当たったことはあったがあの時はどっちにしろ誰かがトスをあげてくれないと出来ないことだから少し違う気がした。
「俺でもいいなら悩みとか聞くぜ」
「いや、悩み今ないから」
「ちぇー、ありそうな顔してたんに」
「残念でしたー」
 暑いなあ、思わず口からでた。自然とワイシャツが汗ばむ。そう言えば隣の彼女はあんまり暑そうには見えない。目の上に手で日陰を作って遠くを眺めている。フェンスの向こうなんて、グラウンドしか見えないのに。本当に何が面白いんだろう。俺にはこのプールに足を突っ込むこと自体さえ理解できないのに、遠くを眺めるようにしている彼女の考えてることなんて何にも分からない。
「あと十分かあー、早いなあ」
「げっ! もうそれしかねえの!?」
 スマホで時間を確認した彼女が言うのだから間違いないのだろう。午後の授業を考えると酷く憂鬱だ。
 早く部活行きてぇ。そんで、スパイク決めてテンションあげて。帰りには寄り道してアイス食いたい。
 俺の考え事がダダ漏れなのか、隣で彼女がけらけら声をあげていた。
「全部声に出てる」
「うおっ!! マジか!!」
「キャプテンしっかりー」
 寄り道までプラン立てるとか、結構しっかりしてんねと今だに笑う彼女。
 むすっとした俺にごめんって言うからなんか許せたり。
「私戻るけど、木兎くんタオルある?」
「考えてなかった……」
「私が使った後だけど使う?」
「使う! サンキュー! 助かる!」
 プールから足を出して彼女の持っていたタオルを借りる。
 俺が水分を拭き上げる頃には彼女は靴下を履いて上履きも履いていた。
「あとちょっとで予鈴鳴りそう」
 ぽつりと呟かれ、急いで上履きをつっかける。次の授業は先生が来るのが早いから予鈴くらいには教室にいたい。
 何だかんだ流れで彼女と教室に行くことになり、彼女が隣のクラスと知るのは教室に入る間際だった。


2014/07/29