昔はいつも一緒だった。男の子なのに周りより少し大人しくて、私の方が賑やかで大人に怒られた。でも、私は知っている。彼にだって表には滅多に出さないけど持っている闘志があることを。
 バレーに出会った彼は周りよりもどんどん上手になって、去年全国レベルの強豪校へ進学した。
 中学の時よりも忙しくなった彼は、必然的に私と過ごす時間が減った。別にただの幼なじみだし向こうはなんとも思っていない。私が彼を見る目が変わっただけだ。こうやってたまに練習を見に来る理由を彼は知らないのだろう。
「ほんと、健気だよねえ」
「全然、そんなことないです!」
 マネージャーさんに名前まで覚えてもらうくらい私はこの部活を見に来ている。彼女は私がここへ来る理由を知っている。見に来るだけならまだしも、マネージャー業のお手伝いもさせてもらって何だかんだ部員の名前も覚えてしまった。今はミニゲームをしていて、木兎さんの元気な声に幼なじみはトスを上げる。綺麗な弧を描いたボールは木兎さんの手に吸い込まれて鋭く床を叩いた。
「ヘイヘイヘーイ! 見たか! 赤葦!」
「見てました」
「さっきのすごくね!?」
「そーですね」
「ちょ、赤葦それ冷たい」
 いつもの様子を見ていると、京治くんと目が合った。あまりの珍しさにきょとんなり、それを見た彼がくすりと笑う。
「あれ、赤葦こっち見てんね…って、あーはいはいそういうね」
「ち、違います!そうじゃなくて、こっそり見てんなよという意味で…」
「名前、ドリンクまだある?」
 マネージャーさんときゃいきゃいと話していたらいつの間にか近くにきていた京治くん。マネージャーさんにぱしんと背中を勢いよく小突かれて、練習中なのに彼と2人になる。汗を拭っている彼に手元にあったボトルを渡した。
「今日は自主練してくの?」
「今日は帰る」
「珍しいね」
「うん。名前と帰りたいし」
「気にしなくていいよ。自主練していけばいいのに」
「練習終わるの自体遅いし折角だからね」
「……うん」
 京治くんの練習時間を割きたいわけじゃないのに、彼は優しいから私はそういうとこに甘えてしまっている。ブラウスの裾を引っ張られる感覚とこつんと額に感触。昔からしてくれる合図は今も変わらない。互いの額が優しい触れるそれは、いいよ気にしないでと言ってくれる。
「練習さあんまり可愛い顔で見ないで。緊張する」
「そんな顔してないって」
「俺には全部そう見える」
「なに言ってんの」
「何って、アイシテルってことかな?」
「……京治くん熱でもあるんじゃない?」
 相変わらず額をくっつけたまま話すのも限界になってきた。そんな、何でこんなこと今ここで言うの。ねえ、誰か聞いてるんじゃないの。恥ずかしすぎて私から彼を押し退けた。顔を見上げればいつもと同じ表情の京治くんがいて、あんなこと言ってたくせに何も変わらないのかと驚く。こっちはこんなに顔が暑いのに。
「練習戻る」
「うん! 頑張ってね」
「じゃあ頑張るから俺だけ見ててよ」
 一瞬掠め取るように柔らかい感触がして、去った京治くん。額にキスをされたのだと気づいたのはしばらくしてからだった。

2014/08/29