影山君は大体、機嫌が悪い。いい時はバレーをしてる時の方が多い気がする。多分そう思うのは私だけで、影山君は否定するのだ。同じ中学出身というだけで、クラスは違うし私はバレー部でもないからこれといって特別な接点はない。一度テスト前に勉強を教えたのをきっかけにたまに話す程度だ。時々、気が向けば第2体育館に足を運んでみたりして練習を見に行ったりする。おかげで隣のクラスにいる仁花ちゃんとお友達になれたり、とっても美人な潔子先輩とお知り合いになれたり、意外と影山君関連は多い。
お昼休み窓際でぼんやりとしていれば、影山君が近づいてきた。最近では他のクラスなのにちゃっかり入ってきて、教室の奥にいる私のところまで来るようになった。
私の前の席の椅子をくるりと回してこちらに向け、座る。もはやこれも定番と化してきている。影山君の手にはブリックパックがあり、いつも悩んで買ってるやつだなあと眠い頭で考える。机に突っ伏したまま、頭を彼の方に向けると首が少し痛い。

「今日、来るのか?」
「え」
「体育館」
「どうしようかなー」
「来いよ」
「じゃあ行こうかな」

影山君に誘われると、何となく行かなければいけない感じがする。断れるけど、断わると後が怖いような。最近、顔を出してなかったしいいかなとも思う。

「遅れんなよ」
「見学してるだけなのに」
「…………」
「遅れないって」

何故かいつも、部活の開始には来いと言われる。遅れたことはないけど、バレー部の見学に行った日は影山君と帰るのも通常で彼の自主練まで見ていく。
無言の圧力がかかるけど、私の言葉に納得した彼は私の頭を乱暴に撫でる。撫でている時の表情が少し柔らかいのを私は知っている。気がすんだのか、自分の教室へ戻っていく。少し乱された髪の毛を手櫛で直していると隣の列にいる月島君が近づいてきた。

「王様、よく来るね」
「ねー、…月島君って影山君のこと王様って呼ぶけど、アレ?子分なの?」
「どうやったらそうなるの」
「いひゃい!つきひまくん!」

ほっぺたをにゅっと掴まれる。私女の子なのに、扱いが酷い。本当は影山君が何でそう呼ばれるのか知っているけど、それはもう過ぎた事じゃないのだろうか。
一応、それは言わないで自分の中へと押し戻す。

「はぁ、どうせ知ってるんデショ」
「ソウデスヨ」
「何も思わないの」
「意地悪な月島君には教えませーん」

どうして、影山君を毛嫌いしていそうな彼にどう思っているのか話さなければいけないのか。全く意味不明だ。勝ち誇ったような表情をすれば、月島君からのデコピンをくらう。やっぱり彼は優しくはない。

「ひっどーい!私女の子なのに!」
「それで?ププッ」

席に戻る彼に叫べばやっぱり笑われて。ほんと、いい性格してるよ月島君。ちょっとひりひりするオデコをさすりながら次の授業の準備を始めた。


放課後、影山君にバレー部へ見学に行くと言ってしまったので仁花ちゃんに声を掛けて一緒に向かった。体育館に行くと既に準備を始めている姿がちらほら。主将の澤村先輩が私の姿に気がついて近づいてきた。私は目が合った時にすぐさまぺこりとお辞儀をする。

「おっ、今日も早いな」
「見学させてもらいます」
「自由にしてていいぞ」
「はーい」

椅子に座ってていいかんな、と言われてもさすがに部員が全員立って動いてるのに、自分だけ座っているのは気が引けるのでいつもみんなに倣ってたっている。みんなは動くから当たり前といえばそうだが、ただの見学なのに楽をするのは何となく嫌だった。
コートに視線を向けると影山君と目が会う。にこにこしながら手を降ったのにふいと顔を逸らされてしまった。あれ、私何かしたのかな?思い当たる節が無かったので、首をひねっても答えは見つからなかった。なんでかな?なんて、仁花ちゃんに聞いてみたけど彼女もわからないみたいで。仁花ちゃんと互いに首を傾げてしまった。
影山君は練習熱心だと思う。さっきの動きはどうだったか、もっと良くなる方法はないのかと模索している。上手くできた動きに手応えを感じてガッツポーズを決めて嬉しそうにする姿も目にしたことがあった。高校でバレーをする姿を見たときに、楽しそうだなと感じた。中学の時に見かけた影山君は不機嫌そうな態度だった記憶がある。あの時は接点も何もなかったのに今ではこうして練習を見に行くのだから不思議なものである。

「楽しそう、だなあ」

思わず溢れた言葉は、幸い周りに人がいなかったこともあり誰に聞かれることもなかった。
休憩になって、みんながコートから戻ってきてそれぞれに水分補給や細かい確認を始める。珍しく影山君が近づいてきた。いつもなら、最低限の休憩をとって日向君とコートに戻っていくのに。

「お前水分とったか?」
「え?」
「とったかどうか聞いてんだよ」

素直に、首を横に振ればどっかへスタスタと歩いて手にコップを持って帰ってきた。こわーい顔をした影山君がずいと私の目の前にコップを差し出すもんだから、飲むしかなかった。コップに入っていたのはスポーツドリンクで、多分潔子先輩と仁花ちゃんが部員のために用意してくれたものだと思われる。

「ありがとう」

意外と影山君は心配症だ。不器用だけどこういう少しのことに気づくのは、やっぱりセッターとしてみんなのことを気にかけてたりするからなのかな。
影山君を見上げれば、また怖い顔をしてて、何だろうと今日何回目かになる同じ疑問を浮かべる。
相変わらず怖い顔をしたままだったけれども、私の頭をくしゃりとなでてコートへと戻って行った。影山君はよく頭を撫でるけどペットにするそれと似たような感覚でしているんだろうかと思う。
日がとっぷりと沈んだ頃、バレー部の練習は終わった。早くに着替え終わった月島君と山口君と話していると賑やかやな声を出しながら日向君と影山君が近づいてきた。

「おい、帰るぞ」
「わ、ちょっと影山君!?みんな、またね!」

ずるずると引きずられるように手を握られて、みんなの輪から抜けた。どうやら影山君の不機嫌が頂点に達しているらしい。今日見かけたおっかない顔が更に怖くなって、声をかけるのにもできない雰囲気だった。彼の半歩後ろをただ歩くだけなのに握られた手のひらが重たい鎖みたいだ。ふと、振り返った影山君が少し困ったような顔にしていることに気がついた。訳がわからず見つめていると、盛大な舌打ちが聞こえた。

「あー、お前が、気に食わないとかじゃなくて、そのえーと、あー」
「??」
「……他の男と喋んな」
「…………………え?」
「なんか、変な感じする」

困った顔と怖い顔の正体がこれらしい。しかも、胸の辺りがざわざわするとも言い出してこっちは本格的に恥ずかしくなってきた。影山君は全く気づいてないけど、充分告白してるようなものだ。

「もしかしてだけど、影山君って私のこと好き?」

恥ずかしさをこらえて聞いてる。すると、影山君はぽかーんとした顔をしてほうけてしまった。無自覚とは、恐ろしい。それから彼はぽっぽっと顔を赤くして手を口元に持ってくるのだから、自惚れ何かとか考えなくてもいいのかもしれない。

「……そういうこと考えたことなかった」

そうだろう、と心の中で頷く。影山君が本気でバレー馬鹿なのは知っているので恋愛について考える、なんていう選択肢は無かったのだろう。ほら、また考え込み始めてしまった。

「お前の言うとおりだと思う」
「あ、うん」
「だから」

考え込んで出した答えに逃がさないというように「さっきのこと、守れるか?」なんて、聞いてくる。これに何て答えたら影山君はお気に召すのだろうか。

20140529

企画::例えばあなたが思うより様に提出
テーマ「めんどうくさい男たち」