隣の席にいる夜久にプラネタリウムへ誘われた。私も彼も受験は推薦で決まっていて、この時期は暇だった。残りの学校生活に時間だけを費やして、いまいち張り合いのない日が続いていた。そんな自分には、ちょっとした予定が入るだけで見える景色も変わる。
朝、登校した時から浮かれていた。同じ受験が終わっている友人には見抜かれていて、出掛ける相手までぴたりと当てられた。
午前中で終わった授業のおかげで、そそくさと支度をして学校を出る。何故か夜久は校門で待っているというので、慌てて準備をしたのだった。小走りになりながら彼の元へと急げば、行くかと言ってさらりと片手を奪われた。
「お前の手あったかいな」
「そ、そうかな。さっきまでばたばたしてたからかも」
「今日寒いし、ちょうどいい」
上機嫌に話す夜久に、心臓の動きが追いついていかない。今までだって男の子と手を繋いだことくらいあるのに、それの比じゃないくらいびっくりしている。手を繋いだ最初は握手をするような形をしていたのに、歩く景色が変わっていく中で自然と指が絡まって繋いでいた。
街にあるプラネタリウムは、小学生の頃から何度か来たことがある場所だ。科学博物館みたいなものが併設されていて、理科の授業に合わせて来たこともあるし、一人でもたまに来ていた。高校生になってはめっきり来なかっただけに、あの頃からちっとも変わらない設備に懐かしさがこみ上げる。人気の少なくひっそりとしたこの空気感も変わっていなくて嬉しなる。
「なあんにも変わってない」
「ここ来るのか?」
「小学校とかこっちの方だから、結構来てたよ。向こうのブースに行くと、休日は科学教室とかやってるんだ」
「へえ、初めて知った」
物珍しげに辺りをきょろきょろとする夜久。鑑賞時間までは少し時間があったので中を見て回ることにした。
小学生の頃ならわくわくした色んなものが小さく見えて、こんなだったけ?と首を傾げる。でも、小さく見えるのは私が大きくなったからでサイズはあの頃から変わらない。小さな街に迷い込んでしまったようで、不思議な錯覚みたいだった。
「そっちは行き止まりだぞ」
「うえっ」
ぼうっと歩いていたら、後ろのえりを引っ張られた。隣にいた夜久が引っ張ってくれなければ、私は壁に激突していとだろう。
「ったく、危なっかしいな。…時間になるからいくぞ」
「はーい」
危なっかしいと言う夜久は校門を出てから私と手を繋いで、離れないようになっている。そんなことをしなくても離れないのに。薄暗いプラネタリウムの中は足元が見えにくい。一歩先に夜久が歩いて、私に段差などを教えてくれる。そのおかけで、躓くこともなく椅子へ腰を降ろした。
そういえば、何故プラネタリウムなのかは聞いていない。私もよく2つ返事で答えたものだ。
薄暗い中がさらに濃さを増した頃、人口的に作られた星々が煌めき出した。何度見てもこの天井いっぱいに広がるこの明るさが綺麗で、来てよかったと思える。じっと見ていても飽きないのだ。専門的な知識なんてこれっぽっちも持ち合わせてない。綺麗なものを綺麗だと感じられる。それだけでいい。
ゆっくりと女性のアナウンスが流れてあの星があーだこーだと説明をする。
今の季節は、これが見えると説明され、今日の夜空にも見えるだろうかと期待してみる。
あっという間に時間は過ぎていき、ゆっくりと明かりが戻っていく。
ふと思い出したように隣を見れば、優しく目尻を下げて笑う夜久がいた。楽しかったか?と問われ、素直に頷く。
「久々に来たけどプラネタリウムって面白いね。あんなに見たのに短く感じたもん」
「お前ずうっときらきらした目で上見てたもんな」
「そんなとこ見てたの」
「いや、ちらっと隣みたらそんな顔してたから」
可愛かったしご馳走さま、と言われ顔から火が出そうだ。何だこれ、夜久ってそう言うことさらっと言うタイプだっけ?おかしい。いや、私もおかしくなりそうだけど。
「顔真っ赤だな」
ふっと余裕そうに笑う夜久は、私が思っているよりも何枚も上手だ。びっくりしたままの私は、動けなくて彼に腕を引かれてようやく歩き出した。
「あ、あのさ、これ、どういうこと……なの?」
「んー、俺がお前のこと好きってこと」
「……」
「困らせたくないんだけどやっぱり言っておきたい。好きだ」
彼の吸い込まれそうな瞳が私を覗き込んでいる。さっきの言葉がリフレインして、胸がじわじわと熱くなる。肥大化した熱量が涙となってぽたりとながれおちた。
「っごめん、泣きたい、……わけじゃ、ないんだけど。なんか……ごめん。夜久のこと嫌いじゃないの……。涙が、勝手に」
「悪かった。さっきの忘れてくれ」
「ち、違うの! あの」
困った夜久が言い出したことを勢いよく訂正すれば、目を見開く彼。
どういうことだと言いたげな表情になる。ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着けた。
「私も、好きだよ」
「今言ったこと忘れんなよ。約束だからな」
私の頬に流れた涙の後をなぞって、唇を寄せた。
2015/01/31