※大人になった国見とヒロイン
※少し不健全
起き抜けの頭に隣の状況はよく飲み込めなかった。国見くんが、隣ですやすやと体を丸めて寝ている。ただしそれは私の部屋のベッドで、それもなんで彼がいるのかということだった。
考えようとしたところでつきん、と鈍い痛みがこめかみあたりにきた。そんなに酒癖悪かったかな?と思い返してみても、何も思い出せない。ついでに腰のあたりも痛んで、相当色々な意味で酷いものだと自覚した。ゆるゆるとベッドから降りて洗面所へと向かう。顔を洗おうと思い、鏡をまじまじと見つめてみても私の変哲もない顔が写るだけだった。ぴしゃぴしゃと顔に水をかけて洗えばようやくすっきりとしてきた表情と、まだ薄ぼんやりと霧がかってる頭の思考回路のギャップに落ちこむ。
未だかつて、男の子とこういうことになったことはない。彼氏の家に泊まるとか逆の状況とかはあったけど、彼氏でもない男の子と事を起こしてしまうほど自分は寂しかったのかと頭を抱えたくなった。試しにゴミ箱とかのぞいてみて、使用済みのアレとか発見してしばらく禁酒だなと固く心の中で誓った。
「国見くん、朝だよ」
「………」
「朝!!ですよ!!!」
とにかく、隣で寝ていた国見くんを起こして確認しなければいけないことがある。気持ち良さそうに寝ているところは悪いと思いつつも叩き起こした。
ぱちっ、と瞳を開いて私を見つめる国見くんの表情はよく読めない。仕方なく私から切り出すことにした。
「オハヨウゴザイマス…あのさ」
「…昨日のこと?」
「理解できないんだけど」
「…え? は?」
「記憶とんでるみたいで」
「…証拠、みる?」
私が全く覚えてないことに違和感を覚えたのか、どこか遠い目をした国見くんは証拠を出してきた。スマホから流れ出した音声に、完全に記憶の飛んでいる自分を恨んだ。酔ってはいるが、記憶が飛ぶほどの声のトーンではなくそれこそまだ正常値に近いものであった。そもそも今まで記憶が飛ぶほど飲んだことはないし、そんな経験もない。自分から誘っておいて覚えてないってタチの悪い冗談かと思いたい。
「名字?」
「なんか、私の方が悪かったみたいでごめんなさい」
「俺とじゃダメだった?」
「そそそそうじゃなくて…」
「冗談」
「今結構落ち込んでるんですけど」
「昨日慰めてあげたから大丈夫」
それからここ、気をつけてねと首筋を指さすものだから首を捻っているとベッドから降りた国見くんの顔が近づいた。理解した時には遅く、ちゅうと立派なリップ音を立てて離れた。
「ひゃ、ん」
「エロ」
「だって!国見くんあんなことするから」
「据え膳食わぬはっていうし」
それよりもさっきのチェックしてきたら?の言葉にはっと思い出して洗面所にダッシュをした。鏡の目の前で髪の毛をどかして、首筋を見遣ればがっつりとついたマークに顔が熱い。
昨日してしまった失態は明らかに自分が誘って、そのままことに及んだことには変わりはないし過ぎたことは致し方ないことだ。でも、ここにマーキングするのまでひと括りにされたらたまったもんじゃない。
「他にもあるから」
「へ?」
いつの間にか後ろにいた国見くんの爆弾発言にぴしりと固まった。こことか、そことか、あとその辺にもと言い出して口をパクパクとさせるしかない。
私を押しのけて洗面所で顔を洗い出したその姿には腹が立つ。フックにかけていたタオルを手探りで寄せて洗顔が終わった国見くんと鏡越しに目が合う。
「やりすぎでしょ」
分かる範囲だけでもかなりあった。独占欲とかそういうことではなくて、戯れにつけたように感じた。きっと、私が確認できないような場所にもキスマークはあるだろう。国見くんがくるりと私のほうに振り返り、手を伸ばす。
「でも、ここだけはまだ」
ぴとりと、きれいな指先を私の唇に押しあてる。私の失態なんかチャラにするくらい、彼は全て受け入れたうえで私を口説き落とすためにここまで張り巡らせたのだろうか。私がこのまま軽く落ちてしまうのも含めて。固まったままの私を見て国見くんは少しきょとんとしていた。
「殴られるかと思ったんだけど」
「殴れないよ…」
それに最初に誘ったのは私なわけでどちらが悪いと言えば仕掛けた自分だ。大量のマーキングに怒ろうとしたのに、なんで大事な壊れ物みたいに言うのよ。怒れないじゃない。
国見くんを見上げれば、ゆっくりと近づいてきて抱きしめられた。
恐る恐る背中に回る腕に少し緊張した。きっと夜は互いに離れないようにしていたはずなのに、今は曖昧な距離になっている。
「国見くん、朝ごはん食べよっか」
こんな始まりでもいいのかもね。
2014/06/17