※社会人設定
久しぶりにバレー部で集まって飲み会をすることになった。木兎さんから連絡がきて、仕事終わり特に予定も無かった俺は一つ返事で答えた。男子だけで集まることも多いが、都合がつけばマネージャーまで集まるのがいつもの流れだ。最近会っていない彼女は今回は来るのだろうか。先輩マネージャーに混じってチームを支えてくれた同じ学年の彼女は、仕事もそこそこ忙しいらしくあまり飲み会に来ない。彼氏はいないって前に言ってたしたまたま予定が合わないだけで、ここ最近来ていないのは知っている。それでも、来ないのかどうかすぐ考えてしまうのは学生時代に恋をしていたからなのか、はたまた想いを告げなかった未練があるからなのか。実はその両方なのか。答えは自分の中で出ていない。
社内に掛かった時計を見上げて定時まであとどれくらいかと確認するくらいにはそわそわしている。約束の時間は少し残業しても充分に間に合う時間で、今日のうちにカタを付けられるものは出来そうだ。少し乾く瞳を何度か瞬きをして回ってきた書類に目を通す。こんなの他の奴が確認すればいいのではないのかと思う内容だとしても、自分が必ず確認しなければいけないというのは面倒だ。さっさと目を通して上司へまわす。
定時を少し過ぎた頃にデスクに放り投げていたスマホのバイブが振動した。
画面にはあの名前が表情されていて、席を立って廊下へ出た。
「もしもし」
『あ!赤葦くんこんばんは。今大丈夫?』
「大丈夫。電話とか珍しいね」
『う、うん。今日の飲み会行けそうだから行こうと思ったんだけど、場所がイマイチわからなくて』
彼女が電話の向こうで少し困った顔ではにかんでいるのが想像できた。
本当にすまなそうに聞くあたりは高校の時からかわらないなと思いつつ、今日の場所は他の人とも行ったことのある場所だったなと思い出す。
「俺場所わかるけどどっか待ち合わせする?」
『いいの?詳しい場所聞ければと思ったんだけど…』
「ちょっと路地入ったところにあるから一緒に行った方がわかりやすいし、夜道で迷うと危ないでしょ」
『ありがとう、助かります……』
「これくらいいいよ。名字さん仕事もう終わり?」
『あと15分くらいかな』
「じゃあ最寄駅にしよう。俺ももうすぐ終わるから」
待ち合わせ時間を設定して電話を切る。オフィスに戻れば定時を過ぎたこともあり自分のシマのデスクにぽつりぽつりと空席ができていた。
残りの業務をこなして、日報を打ち込んでパソコンをシャットダウン。時間を確認すれば少し急がないと電車に間に合わなそうだ。
「お先に失礼します」
くたびれた姿で残業をする人たちに挨拶をして足早に会社を出た。すっかり街明かりで埋め尽くされていて、家路に向かう人が行き交っている。さあ、自分も急ごう。きっと彼女は時間通りの人だから、待っているかもしれない。人の流れに合わせながら同じような動作で改札を抜ける。
数駅乗った電車を降りれば、彼女からメッセージがきていて着いたことを告げていた。
「ごめん遅くなった」
「平気だよ、私もさっき着いたばっかだし」
「……行こっか」
「そうだね。私今日のとこ初めてなんだけど赤葦くんは?」
「前に行ったことあるけど、普段はあんまり来ないかな」
「木葉さんが選んだらしいね」
先輩が言ってたの、と教えてくれて久々に直に会ったわりにはすらすらと会話が繋がっていく。会う度にきれいになってるなあと感じるのは多分自分の贔屓目なのだろう。彼女を横目に見ると微笑んだ表情と視線が合って、まだ好きなのかもしれないと考えが過ぎった。過去にこんなに想いが募って付き合った人はいない。彼女には何も伝えることはできなかったがそれでもいいとあの時は思えたんだ。
「なんか赤葦くんの隣で歩くのって久々かも。高校の時は結構よく歩いてたけどさ」
やっぱり赤葦くんの隣落ち着くねと言われて少し恥ずかしい。いつも真っ直ぐに自分の芯が通っていて、人にも上手にそれを伝えられるから彼女の言葉はよく響く。そんなこと言われたら勝手に自惚れて期待してしまう。危うく口から思っていることがだだ洩れになりそうだ。ふつふつと今まで何も考えないようにしてきたことを掘り起こして、結果的にやっぱりまだ好きなんだと自覚する。
歩きながら話しているとあっという間で道の角を曲がって少し歩けば今日の飲み屋に辿り着く。
店に入る前に少し立ち止まると彼女も倣って立ち止まる。
「俺、まだ名字さんのこと好きみたい」
「……!? え、わ、私?」
「うん。酔う前に伝えておこうと思って」
慌てふためく彼女が面白くて、可愛いなあと思う。それもこれも久しぶりに会った彼女が変わらず素敵な人だからだ。
「だから、返事考えてくれると嬉しい」
真っ赤になっている彼女に、じゃあ入ろっかと促す。これじゃあいい逃げみたいだなと思うけど、少し考え込んでいる姿を見て、自分だけしか知りえない特権かなあと思う。こんなに慌ててるとこ初めて見た。
少し、期待してもいいのかなと思いつつ店の暖簾をくぐった。
「遅くなりました」
「お疲れー……おっ!珍しく名字も来たんだな!」
「木兎さんお久しぶりです」
「早く座れよ」
中に入ると既に木兎さん、木葉さん、猿杙さんが来ていた。座席は掘りごたつになっているらしく座布団は一応の予約人数を示していた。俺が来たことで木兎さんの隣は自然と空いていて座るしかない状況で向かい合わせになる形で彼女は木葉さんと猿杙さんの間に腰掛けた。店員がお通しと暖かいおしぼりを手渡しされた。すかさず、とりあえずの飲み物で生中を注文。
「名字さんはなんか頼む?」
「じゃあ同じので」
「すいません、生中追加で」
店員がにこりと笑ってかしこまりましたと言ってテーブルを離れる。タイミングを見計らったかのように木葉さんに話しかけられる。
「2人一緒とか珍しいじゃん」
「たまたまですよ」
「名字ちゃんとか半年ぶりくらい?」
「あれ、そんなにですか?」
苦笑しながら答える姿を見ても彼女と視線が合わない。失敗したかもと、いまさらの後悔。珍しく感情の波のままに告げてしまったあの言葉。彼女を視界から外すように顔を背ければ猿杙さんと視線が合う。普段からにやあと笑っているが、今日は底意地の悪い表情をしていた。何ですか、と言いかけて注文した生中を喉に流す。さっきのことを言ってしまえば彼女にも申し訳なくなってしまう。
他のメンバーも揃い酔いもほどほどにまわったころ、彼女が隣にきていた。
「赤葦くん」
「どうしたの」
「うふふー、呼んでみただけー」
相当酔いが回っているみたいだ。赤い顔をしてにこにこと機嫌が良さそうにしている。そんな顔して、俺のこと呼ばないで。全部幻で、明日がきたら本当は何も無かった事になってしまうかもしれない。
「赤葦くんのこと好き」
「っ!?」
「さっきの嬉しかったの」
まだ笑っている彼女。きっと酔いがまわっているせいだろう。動揺する自分を落ち着かせようと思考を巡らせても、好きと言われた事実だけがどうしようもなくインプットされていく。
「赤葦良かったな」
にやっとし、壁にもたれかかった木兎さんが言った。後日確認して安心したのはまたの機会にでも。
2014/07/27