「名字昨日試合見に来てた?」
「何で知ってるの」
「いや、試合中に見えちゃってさ」
朝のざわめく教室で茂庭くんに声をかけられた。確かに私はこの間体育館で行われていた試合を見に行っていた。特別一緒に来るような子もいなかったので、一人で見に行ってたのに気づかれるとは思っていなかった。
「試合、集中しなよ」
「してたって。前にも来てたからバレー好きなんかなって思ってたけど」
違ってた?なんて自信なさげに眉を下げる。違ってはいないし、私はバレーが好きだ。うちの学校の男子は強いので有名だし試合の仕方も好みだった。入学した頃からバレー部の人に試合の日を聞いたりしてこそこそと見に行っている。まさか、試合に出ている茂庭くんが知っているとは思わなかった。それも、この日常のタイミングで聞かれるとは思わなくて上手な返し方がわからない。
「バレーは見るの好きだけど、私が前から来ているの知ってるなんてびっくり」
「知り合いいれば、何となく気づくだろ」
さも当たり前のように言うから流されそうになるけど、私はあまり目立つようなとこにはいない。ベンチ外の生徒のいる応援席よりも離れてる場所に座ってみてる。
「いつから知ってたの」
「えーと、去年くらい?名字、前に声出して応援してたことあったじゃん。そん時から知ってるけど」
「え……」
その試合に心当たりはある。確かに1回だけしたことがあった。茂庭くん達の代替わりした最初の試合だったと思う。そんなに大きな声じゃないけど、見てたらどうしても声を出して伝えたくて。気がついたら声がでていた。そんな些細なことを覚えてるなんて思いもしなかったけど、知られていることに段々と顔に熱が集まってきてむず痒さにおそわれる。
あの時すっごい嬉しかったんだ、そんな風に言ってくれる茂庭くんに私の頭が混乱していく。
「知ってたならもっと早く言ってくれたって……!」
「そうかも。でも、ちゃんと伝えたいことあって声かけたんだ」
ちゃんと聞けよーと笑って彼はいう。大所帯の部を率いているのが、この人のいい茂庭くんだということは今だに信じられなかった。でも、それも昨日で終わりだ。彼らの夏は終わってしまった。
「ずっと見に来てくれてありがとうな」
「……!そんな、私は何にも…・…」
「え、ちょ」
昨日の光景が蘇ってきて、涙がでてきた。忘れられないあの光景。ただ見続けただけの3年間だってけれど、こんなにも忘れられないものになった。それは茂庭くんたちが必死にやってきた証拠何だと思う。周りがなんて言おうが、彼らは必死にバレーをしていた。勝利だけを目指してやっていた。私はそれを知っている。
泣き出した私に驚いておろおろする茂庭くんに笑ってみせれば、彼もつられて優しく笑う。
「私ね、見てただけだから偉そうなこと言えないけどね、茂庭くんたちすっごくカッコよかったよ」
「……それ照れるなあ」
「伊達工の試合見続けて良かったって思ってる」
「なあ名字」
「なに?」
「ほんとにありがとう。
俺らの代不作だって言われ続けたから、周りの評価は低い。でも、名字みたいな奴が一人でもいてくれたらやっぱり嬉しいよ」
つい昨日のことなのに、こうやって人に気にかけられるのは彼が大所帯を率いてきたからでもあるし、彼の人柄でもあるのだろう。だからこそ私は彼らを見続けてこれたことを誇りに思える。
「そうだ、新体制の試合俺と見にいかない?」
「いいけど」
一人で見るよりは二人で見る方が楽しいからと言ってくれた。
一緒に見に行って後輩に勘違いされるのはまた別の時にでも。
2014/10/22