※現代に帰った審神者と薬研の邂逅


 全ての任を終え、帰ってきた現代日本。任務についての一切の口外を禁止されており、審神者は今なお不自由な生活を強いられていた。
 いくら元の生活に戻れるとはいえ、なかなか戻れないのが任を終えた審神者の現実だ。

 戻ってきた審神者も例に漏れず、曖昧な感情を持て余していた。日がな一日ぼんやりと窓の外から空を眺め、気がつけば夕空に、なんてことは何度もあった。
 機関からの招集にしぶしぶ参加したある日のことだ。
 ある審神者から、再び刀剣男士と出会える方法があるのをいた。顕現させるための道具がなくとも、自身の能力値が高ければ高いほどその可能性もあるとらしい。そんな信じられないような話を鵜呑みにするほど女も馬鹿では無かった。
 ただ、この空虚な感情から、抜け出せるのなら、一目会えるだけでも良いと考える程には追い詰められてる。
 嘘か真か、にわかに信じ難いものではあったが、決められた手順を踏み近くの神社へ参拝しにきた。
 本殿へ向かい、丁寧に参拝をしてから、帰えるために鳥居の方へ向き直る。前方を見てから女は驚きを隠せない。
 目の前には、もう二度と会えることなぞ夢のまた夢だと思っていた男がいたのだ。見た目は儚げな少年。女は彼が随分と頼りになることを知っていた。見た目にそぐわない低く落ち着いた声は彼女へ呼びかける。
「よお大将」
「……や、薬研?」
「他の誰だっていうんだよ。……それにしても、どうしてこんな時化たツラしてんだか。やっぱり大将には俺っちがいないとだな」
 女より少し背の低い薬研は少しだけ腕を伸ばして彼女の頭を撫でた。薬研を見た瞬間から、女はぽろぽろと大粒の涙を流し、彼に抱きついた。
 薬研は彼女の華奢な背へ腕を回した。
「もう、会えないかと思ったのに……」
「やっぱり放っておけなかったからなあ……というよりは、大将が俺っちのことあんまり恋しい恋しいって呼ぶもんだからつい来ちまった」
 なあ、そうだろ?と言われてしまえばそれまてで、全て合っているので彼女は何も言い返せなかった。そんなことない、と強がりでも言えれば良かったが、あいにく女には彼以上の男など見つけることが出来ないだろうと感じていた。
 相変わらずな泣き顔をした女は薬研にからかわれるように、瞼に口づけを落とされてようやく涙を引っ込めた。一瞬びっくりしたものの、薬研がくつくつと笑うので、してやられたと気がつくのだ。
「薬研はずるいわ」
「さあ、何のことだか」
「わかっているくせに」
「それはあんたが正解できたなら教えてやるさ」
 いたずらっ子のように言う彼に女は今度こそこちらからずるいと思わせられるような言葉をせめて三つ、四つくらいは考えようと決めるのだった。


──その後の彼女の行方を知っている者はいない。
 お伽噺のように彼女は幸せに暮らしたのかもしれない。もしかしたら、人らしい幸せではないのかもしれない。
 それでも彼女は言うのだろう。これで幸せですと……。

2015/05/02

toptwinkle