私の手の中には、二つの刀装がある。
 一つは弓兵。もう一つは投石兵。考えるまでもなく、弓兵は脇差へ渡して、投石兵は打刀に渡すべきだ。それが定石ってやつだ。
 両手に収まった金の刀装を持ち比べながら悩むのもおかしな話だが、こうやって取捨選択を幾度となく行ってきたのだ。今日もその一瞬の場面だった。悩まずとも、今日の出陣部隊にいる青江と宗三に渡すべきものだ。彼らには刀装が足りていない。
 せっかく近侍の前田が上手にこなしてくれたのだ。前田の為にもさっさと届けなれば。
 出陣の時間を自分で指示しておきながら、こうも焦るとは情けない。もっとしっかりとした主にならないと、と初期刀の歌仙によく言われることを思い出す。
 自室から出て、打刀の部屋に入るとちょうど、青江と宗三が同じ机で談笑をしていた。

「青江、宗三」
「それが今日のやつかい。大きくてつやつやだねえ」
「随分遅かったですね」

 仲良く談笑していたとは思えない程にかみ合わない答えをくれた二振だが、決めていた通りに刀装を手渡した。

「やっぱりこれ、しっくりくるよね。僕が脇差だからかな」
「弓兵は脇差しか持てないもんね」
「せっかくなら打刀も持てれば、この石を投げなくてもいいものの」
「宗三まで歌仙みたいなこと言わないでよ」

 宗三が茶化しながら席を立つと、私と青江だけになった。まだ出陣まで少し時間があるものの、不思議な気分だ。

「さっきさ、刀装を持ちながら考えてたことがあってさ」
「うん。随分神妙な顔して部屋に入ってきてたよね」
「……相変わらずよく気がつくね」
「君のことならいつだって気がつくよ」
「あ、うん。それで、こう、片方の手でそれぞれを持ってのって、すごく選びとっているなあって思ったの」
「どういう意味だい」

 要領を得ない私の説明に、青江は理解していない。
 それもそのはずで、私自身もよくわからないのだ。これが正しいことなのか、世の為になっているのか。

「今日は弓兵と投石兵だったし、どっちも金刀装だったでしょ。それに丁度、青江と宗三が必要だったし良かったけど、これが全然違う状況だったら、何だか私の選択が合っているのか不安になってね」

 青江の方をちらりと見上げるとしみじみと頷いている。

「うんうん。僕らは刀剣だから、それぞれに合ったものを装備してくれるのなら文句はないけど、君が嫌だと思えば変えられるものだよ」
「それはどうなの……?」

 困惑気味に聞く私に青江は目尻を下げる。

「さあ。君がよく考えて決めた答えなら文句は言わないんじゃないかな。少なくと僕はそれほど言うつもりはないよ。君は案外思慮深いところがあるから、早々間違えるとは思えないなあ」

 ふふ、と笑う青江は私の頭をぽんと撫でる。
 大人しくしてるなんて良い子だね、と続けて笑う青江。私がまじまじと青江を見ても、柔らかい表情をするだけだ。

「私のこと買いかぶりすぎよ」
「それくらい信用しているんだよ。君の手は秤にも救いにもなるさ」

 立ち上がった青江に合わせて私も立ち上がる。そろそろ出陣の時間だ。みんなを見送る為に玄関へ向かう。

「秤は何かを比べたり決めたりはできるけど、決してそれだけが全てじゃないからね。刀剣であることに僕は何も思わないけど、それが良いか悪いかは誰かじゃないと判断できない。そういうのは君ら人間の領分だよ。
 でも、君は僕ら刀剣を呼び覚ました審神者だし、主だからね。肉体をもったばかりの不安定な僕らを頼むよ」
「全然私より色々知ってそうなのに」
「そう見えるだけさ」

 玄関に辿りつき、青江を含め賑やかに六振りが揃う。

「行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
「ねえ、主」

 みんなが颯爽と出て行くなか、青江がこちらを振り返る。思わず身構えていると青江は苦笑した。

「僕が無事に戻ってくるのは、君の選択肢が最良のものだからだよ」
「え、なに、それ」
「僕らがいられるのは主の選択肢が正しいってことさ」

 じゃあね、と青江は出て行ってしまう。
 茫然とする私とは対照的にきっと青江は余裕なのだろう。

「……青江は言うならそうなのかも」

 誰もいなくなった玄関で私は納得したのだった。


2016/05/07

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