※現パロ・かけこみジューンブライド風味※

 歌仙君が車を出してくれるというからその言葉に甘えて、私は友人の結婚式の式場へ向かうことになった。
 歌仙君は幼なじみだ。社会人になった今でも、お互いに一人暮らしをしているのに、何故か同じマンションの隣同士の部屋で、しょっちゅう部屋を行き来している。
たまたま一週間ほど前、歌仙君の部屋に行った時に今日の話をしたら、送っていってあげるなんて、珍しい申し出があって、それも迎えにも来てくれるっていうんだから、思わず歌仙君の心配をしてしまった。
 車に乗り込み、美容院でセットした髪型が背もたれで崩れないように浅く座ると、歌仙君はくすりと笑った。
「君もそうやってめかしこむと、随分変わるよねえ」
「私だってたまにはするもん」
「……似合ってるね」
「歌仙君が褒めるなんて……何か変なものでも食べた?」
「僕だって褒める時は褒めるさ」
 妙に上機嫌な歌仙君は鼻歌をしながら運転をしていて、それが様になっているなんて狡い幼なじみだ。
 賑やかな街並みの一角にある式場が、今日の会場だ。車を路駐してくれて、停めた歌仙君はこれまた珍しく私の座っていた助手席のドアを開けてくれる。私がびっくりしていると、くつくつと喉を鳴らして笑っていて、こっちの調子を狂わしてきている。
「歌仙君、出れないんだけど」
「ああ、すまないね。……君の姿をまじまじみてたら、見とれてしまってさ」
「っ!!?」
 驚いている私をよそに歌仙君はお手をどうぞ、なんて言って手を差し出してきた。こんなに優しくされるなんて何かの予兆だろうか。
 歌仙君とは幼なじみだし、手を繋ぐことなんて小さい頃からしてたけど今更緊張するなんておかしな話だ。でも、歌仙君の飾らない素直な言葉にドキドキしているのも事実だった。
 これから幸せオーラを浴びて来るのに、と思いながら目の前の幼なじみが調子を狂わしてくる。前々から変わっている幼なじみではあるが、彼が本気で口説いてくるつもりなのか。
「本当に困りものだよ。君は全然気が付きもしないなんて」
 呆れた声で歌仙君は手を引いて、外へと誘導してくれる。
「ねえ、僕の言うことを守れたら式の後も約束通り迎えに来るよ」
「待って、それ守れなかったら、歌仙君は最初の約束を破るつもり?」
 何故今のタイミングで言うのだ。約束させられてまで迎えに来るのに、どうして。
言葉を続けようとしても、ぎゅっと掴まれた手のひらに押し黙ると歌仙君は満足げに微笑んだ。
 正直、この押し問答をしている間に受付の時間が差し迫っている。
「僕以外の男に余所見をしないこと」
 困ったように微笑んだ歌仙君は私から目を逸らさない。
「えっ、いや、そんな急に……」
「……本っ当に君は自分の価値をわかってないね」
 そのあとに、信じられないとでも続いてるかの物言いだった。
「僕は君が他の男の物になるのは我慢ならない。……ここまで言ったら分かるよね」
「……今、そういうことを言うのは狡いって知ってる?」
「そうだな。たしかに僕は卑怯な手を使っている。でも、君はそうまでしないと気がつかないだろう」
 ここまで言い負かされては、頷く以外の選択肢なんてないのだ。
 どんなに偏屈な男だとしても、たまに雅について熱く語る男だとしても、歌仙君が私の幼なじみだということは変わらないし、多かれ少なかれ私は彼を好いている。恋愛感情で、だ。
 ぐるぐると色々な感情が押し寄せたものの、ようやく頷くと歌仙君は掴んだ手を解放してくれた。
「さあ、行っておいで」
 とん、と背中を押されてすぐ目の前にある教会へと促される。
入る間際に後ろを振り返ると、歌仙君は私にむかって手を振っていた。まだ待ってくれている事実に浮き足立つのは役得と思っていいかもしれない。

 式が無事に終わったあと、式場の前で優雅に待つ歌仙君を目撃されて、質問攻めに合う話はまた後日にでも。

2017/6/24

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